共有しうる価値観や理念、目標が示されてこそ人を引き付ける
魅力ある製造業に求められるものを考察する Part2
以前の本コラムにも書いたことであるが、日本の近代史を反芻すると、
日本が先進国と言われる様になるための基本戦略は「日本の製造立国化」にあったと言える。
資源に乏しい日本では明治維新以来、「富国強兵」「殖産興業」の政策によって、
官営工場主導での産業革命を行い、ものづくり(工業力)で国力を増強してきたのである。
一昨年のリーマンショックにおいても、製造業が生産調整に入ると、
貿易収支は即時に赤字へと転落した。
これはまだ製造業のGDPへの貢献度が並々ならぬものである証左であろう。
故に日本経済は製造業が元気でなければならない。製造業は「作る」が基本であり、
非製造業は「消費する」が基本である。
日本の国体を考える時、この相互のバランスが経済の発展にとって非常に重要なファクターではないだろうか。
流通もサービスも金融も製造業の活気に同調して成長を遂げるのだと言うのが
筆者の基本的な考えである。
昨今は中国の驚異的な経済成長が取りざたされ、逆に日本の伸び悩みが目立ってきた。
今年、日本のGDPは中国に抜かれて、世界第3位に降格した。
しかし中国は日本の12倍近い人口を有しているのである。
レバレッジも加味しなくてはならないので断定する事はできないが、
日本の一人当たりのGDPは中国の12倍であり、12倍の消費力を持っていると言える。
だがこの消費力を支えるものが「輸入」になってしまえば、日本は単なる消費大国になってしまう。
資源が無い国であるからこそ、資源を輸入し、ものづくりにより、付加価値を付けた製品に変えて、
世界に輸出しなければ貿易赤字によって、国の経営は破綻してしまうだろう。
しかし前回に書いたように、日本の製造業は確実に数が減少している。
また事業承継自体が困難であり、近い将来に廃業せざるを得ないと思われる製造業も多数あり、
少子高齢化や大学への全入時代の到来などで、
中小製造業は若い労働力を確保することが著しく困難になっており、
これは製造業へ従事する魅力が無くなってきていることを示唆している。
理工系の大学や大学院を卒業した人材が、製造業へは就職せず、
銀行・証券・保険・流通などの非製造業へ大量に流出する傾向が強く、
製造業が未来を託す人材に枯渇しつつある状況を露呈させ、
日本の近代史や今後の発展を考える時に、大きな不安を持たざるを得ない状況である。
これは個別の企業や業界の問題ではなく、
社会的な問題として課題克服に取り組まなければならない問題であり、
経済産業省を中心に製造業離れの実態の把握と要因分析が進められてきた。
これらの取り組みを総括すると、製造業離れの要因は以下に分類される。
(1)社会的要因
(2)経済的要因
(3)教育的要因
(4)製造業自体の内部要因
(1)社会的要因については、
問題が多岐多様に渡り一概にその傾向を述べる事は困難であるが、
一番顕著なことは、日本の物質文明化が進展し、
ものあふれの時代の到来とともに、「もの離れ意識」が進展し、
「ものづくり」自体の相対的な価値下落にあると言えるのではないだろうか。
簡単に言えばものを作るよりも、ものを手に入れ、
そのコンビニエンスを享受する方に価値があると言う錯覚が、もの離れ意識を醸成し、
社会構造の変化の中で、額に汗して勤労に勤しむ製造業のあり方自体がさも時代遅れのような風潮を助長したのではないかと思われる。
またその軽佻浮薄な風潮に警鐘を鳴らすべきマスコミや教育機関も、
問題の本質を理解せず、徒に不安を煽り立てていたようにしか思えない。
そして格差社会の到来は、この傾向に拍車を掛け、社会全体の価値観やモラルを激変させた。
金銭万能の考え方は、「金が金を生む時代」的な風潮を是認し、
徒弟制度的な風合いを感じさせる製造業では、
処遇・賃金・労働環境などの面で競争力不足が露呈し、
最終的には製造業離れに繋がって行ったと言うのが大きな流れではないだろうか。
製造業は単に製品や部品を社会に供給しているだけではなく、ものづくりを通じて、
社会貢献を行い、新たなる人材育成に寄与していると言う「ものづくりの社会的価値」を再認識する必要があるだろう。
また非製造業も製造業との社会的協調により、
企業としての発展があることを理解して欲しいものである。
(2)経済的要因とは、
昭和期における日本の目覚しい経済拡張に伴う産業構造の変化や事業形態の変化に、
日本の製造業(特に中小製造業)が追随することができず、結果的には、
製造業従事者の経済的欲求に対応できなかった事が要因である。
特に新卒採用において、学生が求めるものは、賃金水準、職種の選択肢、配属及び勤務地、
拘束時間・休暇などに関するものが多い。
最近の企業経営において、理工系学生を必要とする傾向は、非製造業においても高まっており、
それらの非製造業が優秀な学生を採用するために、製造業よりも高い採用条件を提示、
理工系学生の大量採用を行った結果、学生の製造業離れが進んだと考えられる。
ここにおいては、製造業がいかなる理念・価値観を持ち、
いかなる将来像・目標を提示しうるかと言うことが重要視される。
すなわち「企業理念の再構築と企業行動の見直し」に取り組まない製造業(もちろん非製造業も同様であるが)には、成長がありえないと言う事と考えて良いだろう。
理念と計画の中には、従業員への労働分配率を高める施策を盛り込み、
経済的要因の解決にアプローチしなければ、
製造業は永遠に「3Kの代名詞」と言う不名誉な定義から逃れる事はできないであろう。
共有しうる価値観や理念、目標が示されてこそ人を引き付け、
その活力を発揮できるものではないだろうか。
(3)教育的要因と(4)製造業自体の内部要因については次回考察してみたい。