学ぶより問うことに重みがある
生産管理の裏側にあるものを考察する(1)
最近の夏は暑くなったと思うのは筆者だけではないだろう。
特に今年の夏は湿度が高いのか、不快指数が例年に比べて高いように感じる。
8月13日(土)に京都でバンドのライブをやるので、昨日も京都で練習があった。
同志社大学での学生時代4年間を京都で暮らしたのだが、
昨日ほど京都が暑いとは思ったことがなかったように思う。
大阪から重いベースを担いで京都まで行ったのだが、
京都駅から7分の練習スタジオに着くまでに、
練習が終わった後のような汗をかき、スタジオに入った時は寒いくらいに感じた。
京都は日本で一番不快指数が高い(夏は暑く、冬は寒い)。
しかし今の京都であれば音を上げて退散してしまうかも知れない。
そして今日は東京に来ているが、これまた暑い、湿気が多い。
節電の関係でホテルの空調が28度に固定されているので、
何となく室内がどんよりして息苦しい気がする。
子供の頃は「今日は30度を超えて33度だ」と言われると暑いなぁと思ったものだが、
最近では連日、当たり前のように35度を超えてくる。
また夏も異常だが冬も雪が降らない。
昔は大阪でも年に2回ほどは雪が積もっていたものだ。
子供の頃の写真を見ると、雪だるまを作っている写真が何枚も出てくるし、
小学校の教科書には東北や日本海地方では積雪の為、
二階から出入りするための扉があると書いていたが、現在では一部の豪雪地帯を除いて、
そのような家の造りは聞いたことがない。
特に都市部では積雪が少ない。やはり異常気象か地球温暖化なのだろうか。
ものづくりもこうした環境変化に配慮したマネジメントが求められるのかも知れない。
高いのは気温だけではない。「円」がまた高騰している。
年初の政府や主要シンクタンクの予想では、本年末での円相場は1ドル90~95円であったが、8月になるのに1ドル77~78円であり、まだまだ高騰の気配がある。
これは米国のドルに対する不信感(米国債の格下げ発言)が理由である、
本日も日銀が米国債購入を表明したが、円安には振れず、株価は急降下であり、
このまま行けば、米国債の投売りに釣られて、9000円割れも現実味を帯びてきたと言えるだろう。
(実際に今原稿を修正している時点で日経平均が8600円台まで下げている)
日本ではやはり震災復興が大きな課題であるが、
この円高はもっと潜在的な経済的危機を含んでいる。
帝国データバンクが発表した全国企業倒産集計によると、
7月の倒産件数は前年同月比5.1%増の965件と、2か月ぶりに前年を上回った。
倒産件数は増減を繰り返しながらも、緩やかに増加基調に転じつつあると報じられた。
東日本大震災の被災地を含む東北地方は42件、同19.2%減となったが、
中部以西日本の5地域はそろって2ケタの増加となっている。
また負債総額は同18.6%減の2028億8500万円と3か月連続でマイナスとなり、
7月としては過去10年で最小だった。
負債100億円以上の大型倒産が3か月連続で発生が1件にとどまる。
業主別に見ると、7業種中、4業種で前年を上回った。
特に建設業、燃料高騰の影響で運輸・通信業の増加が目立ち、サービス業や、
不動産業など、3業種で前年同月を下回った。
主因別の内訳を見ると「不況型倒産」の合計は825件で構成比は85.5%と、
前年同月を1.7ポイント上回り、11か月ぶりに85%を超え、今年最高を記録した。
「円高関連倒産」はまだ2件であり、要因もデリバティブ損失関連なので、
まだ大きな問題となっていないが、円高関連倒産と不況型倒産は連動の傾向を持つので、
今後は相乗的に発生件数が増加する事は否定できないだろう。
年初に1ドル90円前後を前提として、経営計画を練った企業は、
その見直しの必要に迫られていると言えるだろう。
日本の国難はまだまだ続く。
さて前々回に今後は「BCPの実践的導入手法」について書きたいと述べた。
それ以来、BCPについての資料整理を行なっているが、従来のBCPの基本的な思想では、現実問題との齟齬があることが分かってきた。
理由はサプライチェーンのグローバル化や変種変量生産などいくつか考えられるが、
これについての考察はある程度考えがまとまってからにさせて頂きたいと思う。
今回はいつもセミナーで話させて頂く「生産管理の裏側にあるもの」について書いてみたい。
筆者のセミナーにご来場頂いた方にはいつも最後に話させて頂く件であるが、
これを文章にしたことが無く、先日もセミナー受講者の方から、
その部分を書いて欲しいとの依頼があったので、
今回と次回は少し哲学論の様な話になるが「生産管理の裏側にあるもの」の重要性を感じて頂ければ幸甚である。
このコラムの中でも何度も述べてきた事であるが「生産管理とは製造業における文化」、
変化する周囲の環境に対応すべき「組織や人質(じんしつ)の改革」であり、
「生産管理システムはその道具に過ぎない」を再考頂きたい。
生産管理とは「新しい企業価値(ものづくりの意義)の創出と定義、
その達成には強い改革への意欲を持ち、常に成長したいと言うモチベーションを持ち続ける事」、最終的には「組織を構成する社員の意識改革」であると言うのが筆者の基本的な考えである。
生産管理とは、経営のPDCAを回し続ける手法ある。
そのために必要な現場の意識改革を生産管理の裏側にあるもとして捉えている。
少し観念的な内容であるが、話の根幹を各社の具体的な事例と紐付けて読んで頂くと分かりやすいと思う。
生産管理(もしくは生産管理システムの導入)を成功させるためには、
以下の事について考えて頂きたい。
1.人を動かすもの
生産管理や改善は人がものづくりを通して実施するものであり、
自らが行動したり、他人を目的に沿って動かしたりする。
達成されない生産管理には「人を動かすもの」の定義が曖昧なものが多いのではないだろうか。
筆者は「人には他人を動かす力がふたつある。ひとつは利であり、もうひとつは徳である。
現場を動かすリーダーはこのふたつを正しく使いわけなければならない。」と定義している。
組織や人は上下両面から動かす事が必要であり、下から押すと言うのは、
「ノルマや人事考課、成果給、場合によっては降格や企業倒産の可能性など」をもって人や組織の現在を煽りながら追い込む手法である。
上から引っ張ると言うのは「企業理念、ビジョン、中期目標」などを明確にし、
未来を共有することによって、組織を引き上げる手法である。
これはどちらも必要であり、下から押すのは「利」であり、上から引くのは「徳」であると考える。
社員への利益提供だけでも組織は動かないし、夢を語るだけでも社員はついては行けないだろう。
まさに「利」「徳」のバランスから、生産管理や改善を考えるべきであり、
本来的にはものづくりやマネジメントの「やり方」ではなく、
その「あり方」が問われるものではないだろうか。
しかし企業の課題を「理屈や理論」で何度割り算しても、必ず「感情」と言う余りが出てくる。
人を動かす事の長けたリーダーは、この感情と言う余りを上手くモチベーションに変える事ができるものであるように思う。
2.近道と近い道は異なるものである。
改善やシステム導入に行き詰った時に考えて頂きたいことであり、簡潔に言えば、
「人より早く歩いて見せようとする者は、間道を選ぶうちに、結局、大道を見失って迷ってしまう。
力を尽くして近い道を選ぶべきものである。」と言う事である。
近道とは「本質の問題からとりあえずの逃避であり、真の問題を直視せず現実からの抜け道、裏道なんでもありの繰返し」と言う取り組み方であると言える。
こうした巨視的な考えの無い逃避的対処療法であれば、目先は何とかなっても、
継続した改革は不可能で、最終的に抜け出せない泥沼に入ってしまう。
一方、近い道とは「目の前の問題と正対しながら、決して局地戦に終始せず、
ゴールを見据える巨視的なアプローチの中から「遠い道」「普通の道」「近い道」を選ぶと言う事」であり、ゴールを見据える巨視を持っているので、一瞬は遠回りに見えるが、
決して「近道」の様に抜ける事のないループにははまらない。
故に上手く進まない時は「近道ではなく近い道を選んでいるのか?」と自問自答すれば、
必ず大きな流れに辿り着くと言うことである。
先行きが見えないプロジェクトには是非
「近道を選んでいないか?」と自らに問いを発して頂きたいと思う。
結局、近道の繰返しは、一番の遠回りになってしまうのではなかろうか?
3.生産管理とは「学ぶより問うことに重みがある」。
これについては「生産管理や改善活動は学問や知識の側面ばかりでとらえてはならない。
情は課題の温度を変え、知は課題の明度を変える。
これによって物事の本質が見える。」と伝えたい。
勉強熱心で、秀逸な理論武装をしたリーダーが率いるプロジェクトが進まなくなることがある。
リーダーは関連する図書を多読し、学ぶことにかけては人一倍の努力をしているのに結果を出せないプロジェクトだ。
これは一言で言うと「学びと問いのバランスの悪さ」である場合が多い。
「学ぶより問うことに重みがある」と言う言葉は、弊社の新卒採用の会社説明会でも多用しているが、これは学生であっても社会人であっても、同じ問題である。
学ぶと言うことはインプットであり、特に学生の頃の学びには必ず正解が存在し、
問いには答えがある。
答えに達する事が学びの目的であり、解を導き出す事が重要だ。
しかし社会人になると、必ずしも解がある問題とばかり向き合っている訳ではなく、
自らが解を定義するか、決してベストでなくても、よりベターな解を考え続ける姿勢が重要だと思う。
言い換えれば仕事においては「学ぶ力」と並行して「問う力」が重要であり、
常に問いを発し続ける姿勢こそが成長エンジンとなるのではなかろうか。
知識としてのフレームワークや理論は需要であるが、それを本当の組織の力に変えるためには、「良い問い」を発する事が、プロジェクトの成否を分けるという事である。
伸びる現場と伸びない現場の違いは問う力の差にある場合が多い。
自らに問いを発し続ける事は非常に難しい。
一度導き出した答えに固執したいのが人間の本質である。
しかし改善や生産管理、仕事や人生では答えのない「理想」と言う解を
求め続けなければならないことがあると知っておくべきである。
以下、次号に続く。