ものづくりの拠点を海外に移すだけでは真のグローバル化とは言えない


製造業のグローバル化について考察する(1)

2012年も明けたと思ったら、もう2月である。時間の経過が途轍もなく速い。
・歳を取ると時間の流れが速く感じるのか?
・忙しさに追われているうちに、時間の流れをしっかりと感じる己を失ってしまっているのか?
・我々を取り巻く環境の変化が速すぎて、知識や経験の価値などの陳腐化が加速度的に進んでいるのか?

最近「生きることに忙しくしていないと、
死ぬことに忙しくなってしまう」と言う言葉に出会ったが、
今の自分にとっては正鵠を得た言葉だと思う。
そう考えれば「忙しさに追われてみることも価値がある」と言う安心感が湧いてくる。
人間は己の持つ時間の多い方にこだわりながら生きて行くのだろう。
人生を80年と仮定すれば、20歳の頃は、60年の未来を残しているので、
自分の価値観は「未来」に寄って行く。逆に60歳になれば、
「過去」を60年持っている訳だから、価値観は過去を基準とすると言うことだ。
しかし本当に生き抜くと言うのは、この時間の多寡に関らず、
何歳になっても、未来を追及し続ける姿勢にあるのではなかろうか。
何歳になっても、どんな状況であっても、自分自身の今の生き方を、
明日に据えて生きて行きたいし、未来の想いを巡らせ続ける自分でいたいものだ。

閑話休題。

今回からは「製造業(ものづくり)のグローバル化」について考えてみたい。
振り返れば、昨年は「てんさい」の1年だった。
「天才」スティーブ・ジョブズが亡くなり、
「天災」は東北地方大震災とタイの洪水であるが、
SCM崩壊で日本の製造業が大きな影響を受けたのは「天災」である。
また日本経済への円高(過去最高値)の痛撃で、
2012年3月期の連結営業利益が前期比57%減の
2000億円になることを発表したトヨタ自動車は、
「日本のものづくり基盤の崩壊が始まっている」と強い危機感をこめて語った。

短期的には欧州債務問題に端を発するユーロ安と国債格付けの下がった
ドル安などから派生する消極的円高で、新興国への資金流入が減少し、
世界経済を牽引してきた「アジア経済の失速」、
また「大きな天災の再発」などがリスクと考えられる。
中長期的には、日本の人口減少、市場規模の縮小。
生産人口の製造業離れなどがリスクとして挙げられる。

これらのリスクに対応する術はいくつか考えられるが、「ものづくりのグローバル化」が重要なテーマであることに異論を挟む方はおられないだろう。
しかしグローバル化が重要な施策であるが故に、
真のグローバル化の意義を明確にする必要がある。
単にものづくりの拠点を海外に展開するだけでは真のグローバル化とは言えず、
海外を含めたバリューチェーン全体のあり方を再構築しないと、
グローバル化に取り組んだにも関らず、
成果を出せずに終わってしまう企業が多発してしまう。
グローバル化が求められるのは、製造業だけではなく、流通業や小売業、
場合によっては金融業なども同様である。
最近「地産地消」という言葉よく使われるが、これは現地で生産したものを、
現地で消費すると言う意味であり、海外が「ものづくりの拠点」であると同時に、
「大きな市場」であることを表している。
そうした前提では、製販一体となった海外での事業展開戦略が重要であり、
社内の海外事業推進担当部署の事業部としての命題ではなく、
「国外で事業を拡大する」と言う国内外を含めた
全社的な成長戦略として捉えなければならないことは自明の理であろう。

今回以降に継続してグローバル化をテーマに考察を進めたいが、
まず今回は日本企業の海外への進出や撤退の状況を計数的に整理して見たい。

2009年度末における現地法人数は、1万8201社。製造業が8399社、
非製造業は9802社。全産業に占める割合は、
製造業が46.1%(前年度と比べて横ばい)、
非製造業が53.9%(同横ばい)である。(1表)



地域別に見ると、北米、アジア、ヨーロッパの現地法人数は、各地域で増加。
アジアは1万1217社と全地域の6割強を占め、中でも中国は5462社(全地域に占める割合が30%、前年度と比べ0.9ポイント上昇)、ベトナム、インドなどのその他のアジア地域は679社(同3.7%、同0.2ポイント上昇)と全地域に占める割合は拡大傾向にある。




上記のデータから、2000年以降の日本企業の積極的な海外進出が読み取れる。しかしその反面、海外進出はしたものの、所期の成果を創出する事が出来ずに、撤退した企業が話題に上ることも多い。ここで撤退した企業についての、データを表記する。

2009年に進出先から撤退した現地法人数は、659社(前年度と比べ187社増)。製造業は305社(同73社増)、非製造業は354社(同114社増)と、ともに増加した。


撤退比率は、3.5%(前年度と比べ0.9%ポイント上昇)。
北米が4.6%(同1.9%ポイント上昇)、ヨーロッパが3.4%(同1.2%ポイント上昇)、
アジアが3.2%(同0.4%ポイント上昇)といずれの地域も上昇した。
またアジアの中では中国が3.5%(同0.6%ポイント上昇)と上昇に寄与した。


2009年度に進出した現地法人の割合を新規設立・資本参加時期別及び
地域別にみるとNIEs3、北米に進出した企業の割合が上昇し、
その他アジア、ヨーロッパなどに進出した起業の割合が低下した。
海外への進出には(1)カントリーリスク、(2)オペレーションリスク、(3)セキュリティリスクの3つが存在するが、撤退の増加はブームで海外進出した企業が、現実に直面した証左であると言える。

次は雇用の観点から状況を見てみる。
2009年度末における現地法人従業員数は、470万人、
前年度比4.1%増(前年・当年ともに提出のあった企業のみの比較では同3.4%増である。

製造業は368万人、前年度比3.2%増。業種別にみると、
輸送機械(114万人、前年度比3.1%増)、
情報通信機械(79万人、同8.1%増)などが増加した。
非製造業は102万人で、同7.3%増。業種別に見ると、
卸売業(41万人、同2.9%増)、小売業(18万人、同45.9%増)などが増加し、
地産地消の消費に重点がシフトしつつある傾向が読み取れる。

地域別にみると、アジア(328万人、前年度比2.2%増)、
ヨーロッパ(47万人、同12.3%増)ともに増加、
北米(61万人、同▲2.9%減)は減少した。

アジアでは、中国(155万人、前年度比2.2%増)、
ヨーロッパ(47万人、同12.3%増)
NIEs3(25万人、同0.8%増)が増加し、
一方でASEAN4(117万人、同▲2.6%減)が減少した。

こうしてデータを見ると、海外進出に関しても、地域や業種によって、
上昇トレンドや下降トレンドがあることが分かる。
グローバル化もこうしたトレンドの先行きを見極めながら
実施して行く必要があるだろう。

次回は海外での売上高の状況や海外生産比率販売や
調達の現状について考察してみたい。