「東日本大震災から1年経って」

東日本大震災から、ちょうど1年が経ったこの日に筆を執っている。
私は神仏論者ではないので、
神や仏を信じる前に自分の可能性を信じて生きて来たが、
1年前の3月11日ほど、天の恐ろしさを感じた日は無かった。

大地とともに、社会・経済の構造や科学のあり方、
そして人の心が揺れに揺れた1年であったと思う。
自分自身を振り返っても、生きることや家族や友人の事、
己のこれらからの人生、これまでの己の価値などと真摯に向き合う1年だった。
ある意味、生きているのではなく、生かされていることを強く思い知ったとも言える。

阪神大震災の時は、被災地のそばに住んでいたので、やれることがたくさんあった。
当時は会社を設立してまだ3ヶ月であり、社員や顧客も被災された。
直接的にやらなければならないことが山積で、
日々不安を感じる暇すらも無く、ただ前へ行くだけだった。
夜な夜な車に水や食料を積んで、六甲山を迂回し、神戸の友人宅を訪問したものだ。

しかし今回の東日本大震災は、大阪からも遠い事もあり、
TVやインターネットに映る悲惨な報道を見るにつけ、
直接的に動けない自分に強い苛立ちを感じて焦っていた。
4月の終わり頃までは、毎晩、とりつかれた様に寝ずのボランティアに走り回った。
天が与える試練の前では、昂ぶる感情とは別に、
無力な自分への絶望に打ちひしがれ、
最後はそんな自分自身に疲れてしまった2ヶ月だった。

今回は地震被害の大きさもさることながら、
放射能汚染が与える社会的な影響は大きく、
日本中がその未来への重い不安で満たされたようになってしまった。
そしてその後に日本経済に襲い掛かる円高や
欧州債権問題での不況再来の可能性などさらに闇が深くなってくる。
まさにここ10年では日本が一番深い不安に苛まれた1年ではなかったか。
正直なところ、もう日本は駄目なのかと思った時もあった。

しかし未来への不安は、それを共有する人々に「絆」を生んだ。
日本からだけでなく世界から。
富める国からだけではなく、貧しい国からも。
行政や企業だけは無く、一人ひとりの個人から。
大人だけではなく、若者や子供たちも。
痛みを共有し、それを乗り越える力を授けてくれる絆ができた。
この絆がある限り、日本や世界の未来は暗くない。
未来の明暗を決めるのは我々自身の心のあり方や行動次第であり、
高く飛ぶためには、一度、膝を折らないと飛べないものだと信じている。

だから我々は決して3.11を忘れない。
3.11を忘れようにも忘れられない事もあった。
それは先日の小倉での講演会から帰りの新幹線の中で、
Facebookをチェックしている時に知った。
新幹線の中だったが泣いた。周りの状況が見えなくなるほど激しく心が揺れた。
震災直後には自分は食べないで、子供の為に食料を取り置いている
母親の姿を見て涙が止まらなかったが、同じくらいに心が震えた。

FaceBookのメッセージは
気仙沼で発見された携帯に残された最後のメールの紹介だった。
以下引用である。

『「もうバッテリがないよ。痛いと言わなくなったので
妹はさっき死んだみたいです。(T。T)
埼玉はだいじょうぶですか?
またお父さんと一緒にディズニーランドに行きたかったです
お父さん 今までありがとう
だいすきなお父さんへ
本当にありが 

享年 長女17才 次女14才 」

真横で妹が死にゆくなか、どんな想いで暗黒と極寒の中、
彼女はメールを残したのでしょう。涙が止みません。
48才のお父様よりこの携帯を見せていただきました。
一周忌の11日(日) 宮城の地にて祈りの会を行わせていただきます。
14時46分に黙祷を行います。
どうか、皆様各々の場所にて黙祷を御奉げくださいますよう。』
(以上引用)

私にも19歳と16歳の娘がいる。
その娘たちと幾ばくも歳の変わらない二人の最期を思うと、
こうして書いている今も涙が止まらない。
二人のお父さんは本当に娘さんを愛したのだろう。
その気持ちは二人に届いていたに違いない。
いや必ずそうだと信じている。こうした永遠の絆があると信じたい。

震災から1年経った今日、このメールの話を家内と二人の娘に聞かせた。
メールを読む自分の声が、涙で言葉になっていないのが分かった。
家族みんなで泣いた。
そしてこうした不幸で悲しい事があったことは、
生涯忘れないようにしようと家族で誓った。

震災から1年。
今日はあちこちでたくさんの震災復興イベントが行なわれている。
これも絆なのだろう。
こうした横の絆が確かな未来を育んで行く。

我家は近くの川に4つの小さな紙の船を浮かべた。
1つは、震災で亡くなった全ての人々のために。
2つは父を想いながら亡くなって行った姉妹のために。
1つは亡くなった僕の友人のために。
家族4人で一つずつ、思いを込めて川に流した。
「 季節はずれの灯篭流し 」
忘れないと誓う事で培う未来への小さな縦の絆。

不幸にして逝きし、多くの同朋よ。
君等が捧げた多くの命を永遠の絆とし、向後も決して忘れないことを誓う。
我々は命ある限り、未来を創り続けことを誓う。
だから残された我々を信じ、絆を信じ、安らかに土に返れ。
決して君等の命を無駄にはしない。
残された者の使命の重さは決して忘れない。
だから安らかに土に返れ。

来年の今日も残してもらった大切な事を忘れないように、
心を込めて紙の船を流したいと思う。