「自分なりの生産管理システムについての考えは成長したのだろうか?」

生産管理システムの再考
ここ数日はすっかり春めいた気候で、
そろそろコートを持って外出するのもやめようかと迷ってしまう。
しかし近年は異常気象と言われるのが当たり前のようになっていて、
先日も石川県小松市に出張に出掛けたが、
例の爆弾低気圧でJR北陸本線は全線運休で大阪に戻れず、
そのままタクシーで金沢に移動して、予定外の1泊となってしまった。
ついつい異常気象を前提に外出の持ち物を考えるので、重装備となりがちだ。
しかし「人間万事、塞翁が馬」で温泉にも入り、
部下とゆっくり話もできたので悪いことばかりではなかった気がする。

さて「志士奮迅」も書き始めてから、お蔭様で3年を超えることになった。
毎回、読者の皆様からたくさんの感想を頂く。
それは時には厳しく、時には暖かく、優しいものである。
頂いた感想が、筆者の書き続けるモチベーションとなっていることを、
あらためて感謝申し上げたい。

3年を越えた今回は、一度、初心に帰ってみたい。
生産管理システムに携わって27年、会社を始めて19年。
自分なりの生産管理システムについての考えは成長したのだろうか?
そう思いながら、昔の資料を検索している時に、15~6年くらい前に書いた
生産管理システムに関するコラムの原稿が出てきた。
時間を隔てて読んでみると、文章も稚拙だし、言葉の選択にセンスも無く、
荒々しい文章を書いていたのだと驚く。
反面、この間も生産管理を通じて伝えたかったことの本質が
変わっていないことにも少し驚きがあり、安心もした。
ということで今回はタイムスリップして、当時の記事を再掲してみたい。
不適切な表現は最低限改めたが、まだ耳障りな箇所もあるかもしれない。
これもシステム構築現場の当時の本音としてご一読頂ければ幸甚である。
力が入り過ぎの自分の文書に笑ってしまいそうだ。

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日本は製造立国である。昭和30年代から40年代の高度成長期を支えた
主軸が製造業であることに異論の余地はなく、
モノ作りにおける日本の優位性や特殊性が「メイド・イン・ジャパン」を
世界に飛躍させた事は間違いない。
経済が順調に右上がりの時期は、モノを作れば作るだけ売れる時代であった。

しかし飽食の時代を経て、国民総中流意識の中では、
『他人と同じものを持ちたい時代』から
『他人と違うものを持ちたい。個性を主張したい』
へのニーズの変化が顕著となる。
そういう環境下では、『モノを作れば売れる』と言う考え方から、
『売れるものを作ならなければならない』と言う考え方への
変化を求められている。

さらに昨今の不況や低成長、円高などが、製造業の経営を圧迫し、
一切のムダを排除した経営を目指さない限り収益を上げることが
非常に困難な状況となっている。

『 モノを作れば売れる時代 』の工場には、自社内に閉じた管理手法しか
存在しなかったと言える。なぜならマーケットや需要動向、
コストダウンなどを 深く考えなくてもモノが売れたからである。
管理手法の主軸はいかに多くのものを生産するかと言う
モノ作り中心にあったからである。

しかし『売れるものを作る時代』では、管理手法の主体が自社内のみで
完結することは許されない。常にマーケットや市場動向に着目し、
最適のタイミングで最適な数量を生産しなければならないので、
管理のアンテナは社内のみならず、社外や市場に向けられている必要がある。
また社内においてはより安く、高品質なものを、
短納期で生産しなくてはならず、
またこれに反する多品種少量傾向が工場経営の大きな足枷となっている。

この社内外に視点を落とした工場経営の中でここ10年間で言われるのが、
『 情報経営 』と『 品質経営 』であり、情報と経営、
品質と経営の密接なリンクが注目されているのである。
情報をフルに活用し、在庫を減らし、リードタイムを短縮し、
コストダウンを推進し、不良を撲滅する事により
収益を上げて行こうと言う流れである。

情報経営の主軸をなすのが生産管理システムであることは間違いがない。
しかしこの生産管理システムと言うものはクセモノで、
業界では『失敗作の博物館』と言われる。古今に渡り、
システム導入の失敗例は多数存在するが、特に生産管理システム導入の
失敗例に関しては枚挙の暇がないほどである。

筆者も過去に約7000社の製造業に出入りをしてきたが、
5億円以上のシステムを導入し、数年苦しみ抜いた挙句、
一度も稼動せずにお蔵入りになってしまったシステムを30以上知っている。
数千万円のシステムの導入失敗の数など推して知るべしである。

後述するが一方的にシステム構築者(SE)サイドに
問題がある訳ではないのであるが、
製造業を訪問すると「うちの会社のシステムはどうしようもない」
「付き合ったコンピュータ会社が知識不足で最低だった」
と言う声を聞くことが多い。
以前筆者がいたコンピュータ会社では『医者と生産管理には手を出すな』
と言う社内の格言があった。
筆者自身は携わった経験はないのだが、ドクターと言われる
種族も常に特殊な世界にいるのか、お付き合いが大変らしい。
担当の同僚にわがままと体裁の権化であると聞いた事がある。
確かにシステム構築の核に至るまでのプロセスが非常に複雑らしい。

また生産管理システムにおいては、その製造物が多岐多様に渡るため、
これと言ったソリューションの方向性を呈示できないまま、
ユーザの声をひたすらカスタマイズし、システム構築する姿勢が
『 金の切れ目が縁の切れ目的 』な関係不和を生じているようである。
『 持って帰れ 』『 キャンセル 』『 金を返せ 』『 訴えるぞ 』など言う
物騒な話が飛び交うので、君子危うきに近寄らずと言う発想か。

しかしなぜ生産管理システムは失敗する場合が多いのであろうか。
以下に生産管理システム構築おけるその特徴を列挙する。

(1)販売管理など他のシステムと比較すると、生産管理システムを構築する
サブシステムが多岐多様にわたり、その関係が非常に複雑である事。

(2)システム構築における打合せや相互理解において、
ユーザ固有の用語・専門知識が必要になること。

(3)システム構築の目的が省力化、迅速化、情報品質の向上、
データ分析などと言う情報系目的(IT系目的)よりも、コストダウン、
在庫削減、リードタイムの短縮などのIE的目的が掲げられること。

(4)製造業を取り巻く環境の変化が激しいために、構築したシステムの
ライフサイクルが短いこと。

(5)システム利用者が熟練度の高い専任オペレータと言う場合が少なく、
現場と言われる未熟練のモノ作り兼務の人々が中心となること。

(6)単一フェーズでシステム化が完結することは稀であり、
第1~数次に渡る長期的なシステム構築が求められること。

(7)基準情報と言われるマスタ関連のデータ量が非常に多いこと。

(8)各部門から出るシステム化ニーズが、
部門間で相反する場合が多々あること。

(9)現場の課題解決に対してコンサル的サービス内容を求められること。

などが考えられる。

総括すると、製造業(特に中堅以下の製造業)においては、
システム構築の打合せは情報システム担当ではなく
現場担当者であり、改善と言われるシステム外での効果創出を求められ、
システムは広範囲に渡り、処理するデータ量は多いと言う事を前提とした
システム構築である。

これは将にI・E&T(IEとITの融合)である。
従来のシステム導入失敗の要因にこのIEとITの分離、
すなわちSEはコンピュータや情報管理論を振りかざし、
ユーザは生産技術や生産管理論で対抗する構造(相互不理解)に
大きな問題があったのではないか。裏を返せば相互理解が達成されれば、
生産管理システム構築は成功するのである。この相互理解の方向は

(1)ユーザがITやコンピュータに歩み寄る。
(2)SEがIEや生産管理を理解する。

の2方向で、もちろん(1)(2)が同時に達成されば理想であるが、
実際的にはSEがIEや生産管理することが現実的である。

全産業に占める製造業の数の割合は高いが、それをサポートする
システム側に生産管理を熟知したSEが過少であると言える。

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暑苦しい文章を書いていたものだと顔に汗。
しかし妙な力強さと若さがあり、昔の自分に少し羨望を感じる。