決断とは「決めて」「断つ」と書く

起業家の本質について考察する(4)

10月も上旬が終わりかけになって、やっと本格的な秋の気配が漂うようになってきた。
子供の頃、10月と言えば完全な秋だった様に記憶しているが、
昨今は地球温暖化の影響もあるのか、夏の気配がまだまだ残る10月である。
今年は一部で暖冬の予測も発表されており、景気への影響が懸念される。

景気への影響と言えば、喫緊で最大の経済課題は「中・韓との摩擦の問題」であろう。
今回の問題は、相互の歴史的背景認識の相違や東北アジアでの経済覇権など
多くの問題が複雑に絡んでいる。これまでは経済力を背景とした日本の半端外交で、
何となくバランスが保たれてきたが、近年の中韓両国の経済発展やグロバール化により、
日本からの経済支援を引き換えだけでは、問題の先送りができなくなっていると言えるだろう。

問題が日本経済に与えるインパクトが大きくなる可能性は高く、
一部のシンクタンクなどでは、以下のような試算を行っている。

「尖閣諸島をめぐる日中摩擦の影響で、日本の国内総生産(GDP)が
年間8200億円押し下げられる可能性があることが、大和総研の試算で分かった。
日系企業の現地工場の休業などで、中国向けの年間輸出額が1兆円減ると仮定した。
中国からの訪日観光客減少が重なれば、影響はさらに広がるとしている。

大和総研の試算は、反日デモを避けるための工場停止や、
対日制裁とみられる通関の厳格化、不買運動などで、
中国向けの機械や部品の輸出が1年で1兆円減るとした。
財務省の貿易統計によると、平成23年度の中国向け輸出額は
12兆4800億円で、約8%にあたる。

国内製造業は日本から機械や部品を輸出し、中国の工場で完成品に仕上げ、欧米へ輸出している。
中国向け輸出が減れば、部品や機械を作る国内の製造業は生産を減らさざるを得ず、
裾野も含めた生産額は2兆2千億円減るという。

これにより、生産額から材料費などを除いた「付加価値」の合計であるGDPは、
物価の影響を除いて8200億円押し下げられる。年間GDPの0・2%程度だが、
大和総研は、「日本経済に一定の打撃を与える」としている。

さらに大和総研は、年間141万人に上る中国からの訪日客が半減すると、
GDPが1100億円下押しされると試算する。国内の宿泊客が減ったり、
観光客向けの家電が売れなくなったりすることが原因だ」。

これは大和総研の試算であるが、他のシンクタンクでも同じように
ネガティブな予測を行う向きが多い。日中韓は経済において相互共存が成長前提であり、
このまま混乱が長く続くことは、アジアの経済、最終的には世界経済の懸念材料となる。
日本の外交も大きな転換点であり、積極的な対話による、早期の解決が強く望まれる。

さて今回は「起業家の本質」最終回である。
FacebooKと連動したブログ掲載を試み、
おかげさまで本テーマでのセミナーも盛況のうちに終了した。
今回はセミナーで話をしなかった「成功する起業家の共通点」について考えてみたい。

仕事柄、経営者の方とお会いする機会が多い。
創業者、2代目や3代目など多士済々であるが、皆さんが熱く経営を語って下さるので、
学ぶところが多く、感謝の念に絶えない。
経営者としての成功を定義することは非常に難しいが、事業の過去に学び、
現在に満たされることがなく、未来についてあくなき成長を求める経営者を成功者として定義すると、
成功する起業家にはいくつかの共通の要素があることに気がつく。
今回は自分なりの感じた成功の要素について解説する。

  1. 1.事業構築への強烈な熱意と事業構想力

事を成すためには「事業への強い熱意」が必要である。以前にも書いたが「中小企業」と「ベンチャー企業」は異なるものであり、その要素はたくさんあるが、一番の両者に相違点は「一番大切なもの」ではなかろうか。

中小企業で一番大切なものは「企業の存続」であり、
社員やその家族が生活を維持して行くことである。
一方、ベンチャー企業にとって一番大切なものは「ビジネスモデル」であり、
それを実現するためにはM&Aや事業売却、外部からの出資受け入れなどもありえる。
イノベーションを通じて、世の中に新しい価値を打ち立てたいのが
ベンチャー企業経営者であると考えている。

そのためには強烈な事業への熱意が必要であり、
自分自身を信じぬくことができる心の強さが求められる。また事業に明確なビジョンを作り、それを社員やステークホルダーに、進むべき方向として明示できなければならない。

成功する起業家とは大企業にないスピードや突破力を活かしたビジネスモデルを
打ち立てることができる人である。


  1. 2.リスク察知と解決力

ビジネスモデルを実現するための困難やリスクなどを察知し、適切な対策を講じることができること。
経営とリスクは常に隣り合わせにあり、そのリスクを克服することが、
事業価値そのものであることもある。

筆者がこれまでにお会いした経営者の共通項のひとつは、
リスクに対して常に敏感であると言うことであり、逆に言えば、リスクに対して鈍感な経営者は、大きな成功を収めることはできないと言える。
リスクはできるだけ細やかに分析し、
早い段階で対策を講じておくことが重要であることは言うまでもない。

初期の小さなリスクには対応できでも、時間の経過に伴い、
相乗倍で拡大するリスクもあるので、リスクを予見する能力は経営者にとって重要な資質である。

そしてリスクを発見した時、新たな措置によって生じる2次リスクを正しく分析し、
適切な解決策を講じなければならないが、社内だけで解決できないリスクには、
大きな視点から、取引先なども含めたダイナミック、
かつ再発防止が徹底された解決策を模索するべきである。

筆者が感じる成功した経営者の要素に「リスクを過小評価せず、
再発防止に徹底した対応を行う」と言うものがある。

しかしリスクに対して過敏に反応し、経営が萎縮することは避けなければならない。

  1. 3.人の助言に耳を傾け、貪欲に学ぼうとする姿勢


人が独りでできることなど多寡が知れている。
経営の醍醐味とは、仲間とともに喜怒哀楽を共有する過程で、
自他とも成長することにあり、部下の成長は、自分の成長と同期させたい。
しかし経営者は組織の最上位に立った瞬間に、孤独を受け入れなければならない。
最後に決断するのはトップであり、責任を取るのもトップである。
故に後悔の無いように全てを自分で決めてしまいたくなるが、それは違う。

自分で決めなければならないからこそ、人の助言に何倍も耳を傾けなければならないのだろう。
筆者の知る経営者で常に成長し続ける人の大半は、聞き上手であり、常に腰が低く、
自分と異なる意見を持つ人に感謝の気持ちを忘れない。
学びとは、書籍や学校でばかり行うものではなく、学びたいと言う姿勢さえあれば、
人生の全ての場面に学びがあると言っても過言ではない。
人の言葉に耳を傾け、得た言葉に対して、内なる自分への問いを発し続ける。
これがまさに「学び」「問う」学問の真髄ではなかろうか。

学びに熱意のある人は、常に人の言葉に対して真摯である。
知識は課題の明度を変えてくれるが、情熱は課題の温度を変えることができる。

組織の頂点に立っているからこそ、見えるものと見えなくなるものを判別できなければ、経営者としての成長は止まってしまうだろう。

経営の真髄とはまさに貪欲な学びの姿勢にある。

  1. 4.必要な場面での断固たる決断力

経営とは決断の連続であると本で読んだことがあるが、正論だと思う。
経営者は「誰よりも繊細であり、誰よりも大胆な決断を行うと言う矛盾」を
受け入れなければならないが、優柔不断な経営者に成功者はいないと断言できる。

決断は最適のタイミングで行うことに価値がある。
これを徒に先延ばしする優柔不断さは経営の最大の敵のひとつであろう。

決断とは「決めて」「断つ」と書く。

ここで重要なことは「断つこと」である。筆者の経験上、考え抜いて決めた選択は、
AであろうとBであろうと、成否を決める最終的なファクターにはならない様に思う。
逆にAと決めたらBを「断つ」と言う姿勢こそが、
成否の分かれ目になることが多いのではないだろうか。

人間は元来、弱いものであり、決めることと同じだけ、断つことに難しさを悩んでしまう。
しかし「Aと決めたらBを断つ」、そのことが己の迷いを払拭し、
自己のリソース(時間、資金、エネルギー、技術など)を成功の可能性へと投下させるものとなることが多いように思う。

経営者は、方向を決めたら、迷いを断たなければならない

  1. 5.自分の能力や未来に限界をおかない。

    マイケル・ポーターのファイブフォース(5つの競合要因)では、
    企業経営に大きな影響を与えるものとして、競合先、買い手、売り手、代替品、
    新規参入業者をあげているが、経営者のライバルは「昨日の自分」であると思い定めるべきである。
    こう考えておけば、人生の続く限り、成長し続けることが可能だからである。

経営に限らず人生の多くの場面において、
「自分の限界と思った瞬間から、本当の勝負が始まる」のではなかろうか。
自分の能力や未来に限界を置いてしまうと成長は止まる。孔子は「五十にして天命を知る」と言ったが、経営者は死ぬまで天命を探し続けることが使命なのかも知れない。

満ちれば欠ける。

夢には達成の形があるが、理想は一歩近づけば、新しい理想の形が見えてくるものだ。起業家には夢ではなく、理想を追い続けてもらいたいものである。

  1. 6.強力なリーダーシップ

起業家は組織のリーダーであるので、リーダーシップを持つことは重要である。
しかしリーダーシップの形は、その率いる組織の形や特性、
時間や環境によって変わってくるものであると理解したい。

経営者として、企業としての成長や変化があった場合には、
求められるリーダーシップの形は変わってくる。いつまでも同じ形のリーダーシップでは、
組織を牽引し続けることができないが、
その単純な本質は変わらないことも理解しておくことが必要である。

筆者の場合、起業した時にリーダーとしての3つ条件を決めた。

  1. (1)社員より先に食べない。

  2. (2)社員より先に寝ない。

  3. (3)社員より先に逃げない。

(1)は利益の分配は部下が優先であることを表し、(2)は社員の誰よりも多く働き、事業のために時間を投入することを意味する。(3)は部下に任せる時には、自分に最後の責任をとる覚悟を決めて任せることと決めた。これは今でも変わらない

また未来のビジョン・計画の提示と強力な推進力の発揮も求められる。

組織は下から押すか、上から引っ張るしかない。
下から押すことは肯定的恐怖(ノルマや予算)であり、
上から引っ張るとは未来や方向(ビジョンや計画)の提示である。
そのどちらに偏向しても、組織は動かない。リーダーは場面に応じて、
その割合を絶妙に変えて行く。

求められるリーダーシップの形が変わることは、組織は成長の証であると考えれば、
それは経営者としての喜びのひとつではないだろうか。

思うままに書いたが、最後に言いたいことは、経営者としての健康管理である。
経営者は、常人の何倍、何十倍、何百倍のストレスを強いられる。
ただでさえ生きて行くことにストレスが多い現代社会の中では、
徹底した自己管理と強力なメンタルタフネスが必要であり、
最後に自分を守ることができるものは「健康」であることは、筆者も含めて肝に銘じたい。 

前後4回に渡って「起業家の本質」と言うテーマで考えを書かせていただいた。
考えや経験の全てを披瀝できたわけでもなく、書いた内容が来年に変わるという可能性もある。

しかしそれは自己の成長の証として、受け入れるつもりである。
自分の限界の向こう側に本当の可能性があると信じる限り、挑戦はやめない。

今の日本は新しい起業家の創出による真のイノベーションが求められている。
出でよ。未来の起業家たち。