リスクを正しく受け止める
冬到来。
日本中にも一気に寒気が押し寄せてきた。
街行く人々も寒さに身を屈め、ポケットに手を入れながら、足早に歩く人が増えた。
景気の浮揚感もあるのか、街中では、クリスマスのイルミネーションが、昨年よりも賑やかに感じる。来年もこのまま順調に景気回復が続いて欲しいものだが、隣国との国際関係が緊迫の度合いを高めており、内需に依存しないグローバルな経済環境の中での成長を求められる日本には、その成長にまだまだ大きなリスクが存在する。
リスクと言う言葉はよく用いられるが、一般には投資やビジネスにおいて損失を被る危険性(可能性)と解釈されている。厳密には、”危険性”という意味で用いられる分野と、結果が予測しにくいという”不確実性”の意味で使われる分野がある。
人生とはリスクの連続であり、経営とはリスクマネジメントにその要諦があるよう思う。以前にも書いた事だが「人生において、リスクを正しく取らない事が、最大のリスクである」と自分に言い聞かせて生きてきた。
自分の思考を未来に向けると、不確実で不安定なものの中に手を突っ込まなければならないような気がするが、それは当然のことであり、確かな未来など、誰にも分かりはしないからだ。
しかし人間には経験と知恵があり、その不確かさや危険性に潜むリスクの発見することができ、
そのリスクを正しくマネジメントすることにより、不確実な未来を形のある計画に変えることができる。
ビジネスにおいては、「ビジネスモデル」がオフェンスだとすれば、
「リスクマネジメント」はディフェンスであり、この攻守のバランスの良さが、
成功を成し遂げるための要因の表裏であると言えるだろう。
通常、リスク対応に対しては「低減」「受容」「回避」「移転」の4種類の対応が一般的である。
- (1)リスクの低減
存在するリスクの影響度(リスクインパクト)を分析し、その発生可能性と影響の度合いを軽減する対策を行う事であり、管理策をもって、リスクに向き合う事である。リスクは低減されるが、消滅するわけではない。
- (2)リスクの受容
リスクの保有とも言う。リスクインパクト自体が大きなものではなく、
想定したリスクが受容できる範囲である場合、管理策実施における費用対効果を考慮し、
リスクをそのまま受け入れることである。また管理策では、
これ以上のリスク値を下げる事が出来ない場合、経営陣の承認を受けた上で、
リスクを保有することであり、リスクの放置とは異なる。
- (3)リスクの回避
リスクは保管しているだけで、漏えいなどの2次的なリスクを発生させる場合がある。
この保管リスクの隔離、または廃棄を行い、リスク発生の可能性のある環境からの回避を行うことである。経営の場合は、事業からの撤退や売却などの選択肢もありうる。
- (4)リスクの移転
保有するリスクを保険やリースによって、委託先やサプライヤーに移転することであり、
情報漏えい保険などが該当する。
上記の4つのポジションをマトリクス化すると以下のようになる。
リスクに対しては、正しく予見できれば、必要以上に敏感になる必要はない。
上記の4つの方法に準拠して、正しい対応策を講じておけば、
必ず克服することができると信じている。
逆に怖いことは「リスクに対して鈍感になること」と
「リスクを正しくとらないこと」の2つではなかろうか。
リスクは発生当初には、それほど大きなリスクインパクトを持たない様に思えるものが、適切な対処を行わずに放置すれば、時間の経過とともに、対応が不可能なほど拡大してしまうものがある。「成長するリスク」と言われるものである。
リスクに対する敏感な感性を失い、鈍感になってしまうと、初動を誤ってしまって、大きな問題を引き起こす。初期リスクに対して、しっかりとしたリスクインパクト分析を行い、適切な対策を講じ、経過観察を怠らなければ、必要以上に敏感になる必要はない。しかし放置と受容は異なることをしっかりと理解した上での初動と対策が重要である。
2つ目は「リスクをとらないことが、一番大きなリスクになる」と言うことである。前述のようにリスク対策には4つのアプローチがあるが、全てのリスクを回避できるわけではなく、存在するリスクに正しく向き合わない「リスク逃避」は危険である。
経営や人生において、その過程にリスクが存在しない事など無く、何かを実行するためには、相応のリスクを背負わなければならないが、ここで相応のリスクを負わず、全て回避しようとすると、手段と目的の取り違いが発生する。
経営や人生において、リスク対応とは、本来、目的を達成する手段であるはずなのに、全てのリスクを回避することが最優先の目的になってしまうと言う事を指すが、これは本末転倒も甚だしいと言わざるを得ない。
リスク対応は「手段」であり、成果創出が「目的」である。
リスクと成果とリスク、場合によっては変化(イノベーション)とリスクは常に表裏一体であり、対策によって、そのバランスを変えることはできるが、成果を求める限り、リスクは必ず発生する。ゆえにリスクをとらない事は、何の成果も生まないと言う事であり、リスクをとらない事が一番大きなリスクと言い換えることもできる。
成功する事業や人生は、平穏な時にこそ、危機を予想して準備を始めるものだろう。
「良将は晴天に嵐を思う」と言う格言もある。
一時の成功に驕慢になってしまえば、他人や他社が小さく見え、自分自身の顎が上がり、同時に足元が見えなくなった自分に気付かない。そして人は大きな陥穽に落ちてしまう。
事業においては「組織が人を守るのではなく、人が組織を守る」ものだ。
人がリスクに対して、鈍感すぎたり、敏感すぎると組織は維持できない。
リーマンショック以来、社会に潜在するリスクは増大する一方であり、その顕在化への取り組みや対応策の必要性は、人生や経営において最も求められる要素となるだろう。
先般の12月全国企業短期経済観測調査(日銀短観)では、大企業製造業・業況判断指数(DI)はプラス16となり、前回の9月短観から4ポイント改善した。2014年3月予測はプラス14になった。
2013年度全企業・全産業の設備投資計画は前年度比プラス4.6%となり、その内、中小企業・全産業の設備投資計画は前年度比プラス7.9%、前回調査から8.6%上方修正となった。
また2013年度大企業・製造業の経常利益計画は前年度比プラス34.7%となり、前回調査から8.6%上方修正。中小企業・全産業では前年度比プラス7.2%となり、前回調査から5.4%上方修正された。
日本経済は不況から脱出の糸口を見つけたように思われる。
しかし「人間、万事、塞翁が馬」である。
こうした成長や上昇の時にこそ、慎重にリスクを発見し、大胆にリスクと向き合う性根で取り組むべきであろう。
目の前に新しい課題が発生したとすれば、自らのステージが1つ上がったと考えれば良い。
新しい課題は成長の証である。
そう考えれば、課題や問題は楽しみながら解決できると思いたい。
読者諸氏には、本年もご愛読頂き、心より感謝申し上げるともに、来る2014年のさらなるご発展を心より、お祈り申し上げます。