ビジネスコンテストに思うこと
「満ちることは己の成長を止めてしまう」
12月に入って一気に寒冷前線が降下してきた様相だ。
先月から持病のヘルニアの腰痛で七転八倒の小生には、この急な冷え込みが厳しい。
出張に出かけるのが億劫に感じるのも腰痛のせいだ。
最近、お会いする方々から「腰は大丈夫ですか?」と聞かれるが、腰痛もつらいが、実はヘルニアと並行して、一日中、コルセットで腹部をきつく締めているのが辛い。
季節柄、会食や忘年会が多いのだが、コルセットを装着しているとなると、食事が進まず、会食中も2枚重ねて装着のコルセットを外してしまいたいと言う衝動に駆られてしまう。
腰痛とは長い付き合いだが、なかなか仲良くはなれないものだ。
今日(12月7日)はDVT(同志社ベンチャートレイン)主催のビジネスコンテスト「New Island Contest」の審査員で母校に行った。
このコンテストの審査員も3年目となるが、後輩たちが企画・運営するビジネスコンテスト(以下ビジコンと略す)は、学生ならではの手作り感が満載で、洗練された社会人のビジコンとは趣の異なる良さがあり、邪気の無さに感動してしまう事がある。
今日は予選を勝ち抜いて来た5組の学生プランナーによるプレゼンが行われたが、最終的に「孫へのプレゼントを検討しているおじいちゃん・おばあちゃんのためのおもちゃ専門ギフトカタログサービス【トイステーション】」を提案した「Toy of Nishioka」チームがグランプリを獲得した。(写真下)
孫が本当に喜ぶものをプレゼントしたいが、おじいちゃん・おばあちゃんには、子供の欲しいものトレンドが分からない。お母さんも子育ての方針や格納スペースなどを考えたプレゼントが欲しいと言う三者三様の思いを繋げ、全員がハッピーになることを目的としたプランだったことや事業領域や手法が明確であることなどが評価されたように思う。
また他のグループも学生ならではの視点で考える素晴らしいプランであり、実際は接戦だった。
今年も何回かビジコンの審査員を拝命したが、審査の際には、社会人対象のビジコンと学生対象のビジコンでは評価の重みづけを変えている。
採点(評価)項目は殆ど同じだが、自分の中では採点基準のバランスが異なる。
同じビジコンと言うカテゴリーだが、その目的はプランナーの立ち位置によって異なるものだと思うからだ。
社会人のビジコンの場合はビジネスプランの「実現可能性」や「収益性」が評価され、基本的な選択肢は「やる・やらない」であるが、学生の場合はプラン作成を通じて得る学びが重要であり、「できる・できない」が選択肢だと思う。
できない理由を知ることにより、企業経営の一端を垣間見ることができ、その克服の方法を考えることにより、起業や経営の厳しさや楽しさを知ってもらうことが重要なのではないだろうか?
社会人はプランの「結果創出の確率」を求められ、学生はプランの「過程での気付き」が重要視されると言う事だ。
確かに学生時代に起業して、卒業後も活躍されておられる方は居られるが、全体から見れば、社会人を経験した方の起業が圧倒的に多いのが現実である。
学生と社会人のビジネスモデルの内容や審査項目に大差が無いとしても、最終的には、起業には強い決意が求められる。
それは不退転の覚悟であり、己を成功と挫折の境界線に置く勇気である。
その覚悟や勇気を学生に求めてしまうのは難しい。
しかし起業すると言う事を学生の段階で真剣に考えてみることは、企業に勤めることになったとしても有益になると確信しているし、自分が社会人として働き始めてから、学生時代に考えたビジネスモデルが洗練されることもあるだろう。
社会人のビジコンとは走り出すことが目的であり、学生のビジコンは走る喜びを知り、スタートラインに立つ自分を思い描くことが目的だとも言えるように思う。
しかしビジネスを評価するコンテストに社会人と学生の区別も無いのではと言う反論を頂くかも知れないが、起業家育成を中長期の視点で考えるのであれば、やはりその目的の違いを明確にしておく必要があるのではないかと思う。
投資家と審査員は異なるものだ。
コンテストで栄冠を勝ち取っても、必ず成功するわけではなく、受賞に到らなくても、のちに大きな成功に辿り着く人もいる。
コンテストはあくまでも機会を切り開くものであり、最終のゴールではない。
これを機に、さらにプランをブラッシュアップさせ、自分自身の可能性に繋げてほしいものだと思う。
学生と社会人のビジネスコンテストの意味合いは異なると書いた。
しかし最終的には、己のプラン実現のための熱意や本気さが、審査する側の心を打つことには変わりがない。
経営は「仕組み」も重要だが、それを動かす「心の強さや志の高さ」が重要だからだ。
水が高所から低所に流れるように。
熱は熱いものから冷たいものに伝わる様に、志の高さや想いへの熱さが社会や人を動かす。
今日の若きプランナーたちに気付きがあり、起業の楽しさや厳しさが伝わっていれば嬉しい限りだ。
起業は社会的、経済的な新しい価値の創造であり、社会や国を豊かにすることができるものだ。
日本や世界のためにも若いプランナーたちの活躍を期待している。
審査をしているとプランナーから、思わぬ気付きを得ることがある。
彼らのプレゼンの前で、自分の心が時間を遡り、起業への情熱で熱かった己を思い出す。
志や熱い想いが、経営に必要なことは今も変わらない。
「社会とは、経営とはこんなものだ」と、自分に嘘をついていることに気づかない自分を感じて、少し反省とともに軌道修正をした。
満ちることは己の成長を止めてしまう。
審査の合間、学内に作られたクリスマスツリーを見た。
自分が学生の頃には想像もできなかった大きなツリーが夕映えの空に高く伸びていた。
学生たちにも、より高い世界へまっすぐに伸びていて欲しい。