この不安定さは変革への予感

 2017年12月、今年も師走で多忙を極めている。

 振り返れば、不安定な形をした1年だったように思う。
景況指数や株価を見れば、バブル期以降では最高の好景気だが、まず手応えがない。
 弊社もお陰様で多忙を極めているのだが、景気が好転した時に感じる、時代に乗って羽ばたくような感じはない。足元に不安を感じながら近未来の忙しさに追われているような感覚であり、どの経営者とお話ししていても同じような感覚を持っておられるようだ。

 北朝鮮問題を考えれば、日本は大きな危機に直面しているはずなのに、日本を訪れる外国人旅行者数は過去最高を更新し、北朝鮮が日本海にミサイルを発射しても円は買われて円高になる。
 本当に不確かで不安定な1年だった。

 ひと昔前の政治・経済の原理が理屈通りに働かない時代、言い換えれば「変化の形に変化が生じ始めているとも思える時代」の到来であり、それに馴染まない感覚が社会の不安定感を醸し出しているのだろう。

 これは変革期を迎えた時代によくある感覚かもしれないが、人間とは大きな変化の只中にいれば、小さな変化に対して鈍感にならざるを得ないものなのだろう。
 こんな時こそしっかりとした原点回帰の意識を持ち、企業や人としてのレゾンデートルを強く認識しなければならないのだと思う。

 基本はいつも変わらない、そして変化の時にこそ、基本の重要性が問われるという事だ。

 ITやものづくりの世界も大きな変化を迎えつつある。
AIやIoTは、10年前まではドラえもんの世界に近かったが、技術革新により現実世界での有用性が確かなものになりつつある。
 「シンギュラリティ」が現実味を帯び、あまりの急速な進化を危ぶんで、技術進化と同じだけ社会不安が積み重なっていく不安定な状態であるともいえる。

 このような不安定な時代の中で、ものづくりやその経営も変貌を遂げつつあり、特にIoTやAIを基盤技術とするIndustry4.0は、今後もものづくりに大きなインパクトを与えていくだろう。
 製品やサービスは、設計の段階からインターネットに繋がることが前提であり、製品のリリース後もインターネットに接続することでその機能をアップグレードし続け、次の製品開発の基礎データとして収集し、AIによりその情報は知見や技術に変えられる。
 製品やサービスはその単体の機能提供では終わらず、製品の枠を超えた連鎖の中に連続的なバリューチェーンを構成していく。
 「終点は次の始点になるデータの連鎖」の中で、ものづくりは転がるようなPDCAを繰り返しながら進んでいくようなイメージである。

 こうしたIndustry4.0に代表される第4次産業革命の波は、間違いなくこれから社会的プラットフォームとして受け入れられるであろう。

 このような状況下で、日本政府は日本版Industry4.0として『コネクテッド インダストリーズ』という概念を提唱している。
 AIやIoT、ロボティクス、3Dプリンタなどを基盤技術とするところは他国と大差はないが、日本企業の特徴ともいえる「これまでに収集してきた精緻なデータを中心としたアプローチ」をコアに据えたモデルである。

 しかしこれは、非常に危うい方向性に立脚しているともいえる。

 IoTなどによって膨大なデータ収集が可能となり、ビッグデータを構築することは容易となるが、残念ながら、その蓄積されたデータをどのように知価に変えるのか、そのメソドロジーが確立していないのが現状である。
 ゆえにデータ中心のアプローチであるコネクテッド インダストリーズは正論でありながら危ういのである。

 データに目的を持たせれば情報となる。
これは情報技術の役割であろう。
 情報の因果関係から価値を見出せば知識となる。
これは知識技術によって拓かれる領域であり、それがAIなのか、データマイニングなのか、何らかの新しいアナリシスの技術なのかはまだ分からない。
 コネクテッド インダストリーズもまだ大きな可能性を秘めているが不安定だ。

 情報技術中心の「情報社会」から、知識技術がメインフレームとなる「知識社会」への移行は必須であるとしても、いまだそのキーとなり得るテクノロジーが見つかっていないのが現状であり、どの企業も来るべき知識社会に備え、そのキーテクノロジーの出現を信じながら、ひたすらデータを集める(ビッグデータを構築する)ことに終始しているのが事実であろう。

 しかしその知識技術が確立した時に、日本は大きなアドバンテージを持つことができる。
 未来のデータはこれから集めることができるが、過去に遡上してデータを集めることはできないのであり、不完全とは言いながらも、データ集積に熱心であった日本企業は、その優位性を発揮できる可能性があるだろう。
 日本が再び世界のものづくりにおいて大きな役割を果たすことができるかもしれないと感じるのは、私の自国贔屓であろうか?

 現在のトレンドは不確かで不安定なものだと書いた。
しかし好景気に後押しされる不安定さは、大きな変革期の端緒となることが多いのも事実である。

 今後、この不安定さが増すのか、はたまた確固たる安定成長の始まりとなるのか、2018年に大きな方向が定まるような予感がある。
 来年は、人と技術と社会が鼎(かなえ)の3つの脚のように支え合いながら、革新や変化に対応する基礎ができる一年となって欲しいものだ。

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 本年も私の駄文にお付き合い頂き、ありがとうございました。
来年もものづくりや経営、人生などに思いを巡らせながら書き連ねたいと思いますので、引き続きご愛顧賜りますようお願いいたします。

読者の皆様の益々のご繁栄とご健勝をお祈り申し上げます。
それでは良いお年をお迎え下さい。

2017年12月 抱 厚志