製造業における「技能承継」の進め方
(大橋高広氏寄稿-2回目-)

 こんにちは。株式会社NCコンサルティングの大橋高広と申します。
「管理職研修・若手社員研修・人事制度設計」の専門家として活動する傍ら、ビジネス書作家としても活動しております。

 さて、第2回目となる今回は「技能承継の進め方」についてお話しします。
技能承継とは、ものづくりの技術などをベテランスタッフから若手スタッフへと引き継いでいくことをいいます。製造業においては、その品質や技術をこの先も維持向上していくために、技能承継は非常に重要な経営課題といえます。

 しかし、私は製造業の会社へご訪問させていただく機会が度々ございますが、技能承継が進んでおらず、経営者や幹部社員が頭を抱えている姿をよく見かけます。それだけ技能承継が難しい課題だということだと思います。

 なぜ技能承継は多くの会社で進んでいないのでしょうか?

 まず、ベテラン技術者の性格です。基本的に、技術職は人と接する機会が他の職種と比較して少なく、黙々と作業に集中することが多いです。そのため、口数が少なく内向的な方が多い傾向にあります。私は現場のスタッフと面談させていただく機会が多いのですが、人とあまりかかわらなくて良いからこの仕事を選んだという方も多くいらっしゃいます。

 次に、ベテラン技術者のプライドです。優れた技術者ほど、自身のスキルアップに莫大な時間やお金をかけてきているため、簡単には教えたくないという気持ちが働きます。部下に教わる姿勢が足りないときや、横柄なときはなおさらです。ベテラン技術者は自身の仕事にプライドがあるため、技能を伝える相手を良い意味でも悪い意味でも選んでしまう傾向があります。

 さらに、ベテラン技術者が技能承継をすることに不安や疑念を持っていることもあります。技術が高ければ高いほど、その技術者の希少性は高く、組織に大きな影響力を持つことが多いのですが、技能承継においては、逆に不安を持つことになります。なぜなら、後進たちに技能承継をして自分が大切に培ってきたスキルが多くの人たちに伝わっていってしまったら、自分の仕事が減らされるのではないか、若手スタッフを昇格させて自分はお払い箱になるのではないかという不安があるからです。

 それでは、このような状況でも技能承継を進めるにはどうしたらいいのでしょうか?
やるべきことは、この3つです。
1.強制的にでもプレイヤーの部分を減らし、マネージャーの部分を増やす
2.技能承継、人材育成を適正に評価する
3.技能承継に関してPDCAをまわすために伴走する

 まず1つ目は、ベテラン技術者が現場に入る時間を減らして、人材育成にかける時間を増やせる体制をつくることです。
ベテラン技術者がプレイヤーに専念している限り、技能承継が進むことはありません。「仕事が山積みで人材育成なんて手が回らない」「まだ現場を任せられる人がいない」という声が聞こえてきそうですが、これについては、今のまま放っておいて半年後・1年後に解決したという事例を、私の知る限り見たことがありません。改善は「簡略化」よりも「辞めること」から始めるべきです(ECRSの法則)。

 2つ目は、技能承継(人材育成)を純然たる「仕事」にすることです。
「そんなことは当たり前だ」と思う方もいらっしゃると思いますが、実際に技能承継が仕事として適正に評価されている職場を、私はあまり見たことがありません。正直なところ、気の良い上司がとくに見返りなどは求めずに、自分の時間を使って教えているというのが実情ではないでしょうか。しかし、それでは技能承継は進みません。技能承継の優先度を上げ、必ず実施する業務という位置付けにするのです。「仕事」にするということは、その成果を評価するということです。現在の人事評価に「人材育成(技能承継)」の項目を入れて、処遇に反映させることが重要です。

 3つ目は、PDCAサイクルをまわすため、ベテラン技術者に伴走するということです。
技能承継に関する計画(Plan)を具体的に立てましょう。ここで重要なことは、ベテラン技術者に育成スキルがあるとは限らないため、人事部や、人事部がなければ人事担当者などがベテラン技術者に、計画の立て方や指導方法などを教える必要があるということです。特に「目標設定」は重要です。単純に「○○ができるようになる」だけではなく、具体的な指導方法や達成基準(状態基準)を設定したうえで、月別に計画を立てましょう。目標設定のポイントは、振り返りがスムーズにできることです。具体的な数字・期限・どのような状態にもっていきたいか、など詳細に決めておくと良いでしょう。

 また、評価(Check)をすることも重要です。当然、計画を立てるだけでは技能承継はできません。だからこそ、立てた計画を実行してその結果を確認して評価し、見直して改善することが重要です。

 しかし、これをベテラン技術者に任せておいてもできないことが多いです。実は、現場任せでは技能承継は進まないことがほとんどなのです。ですから、人事部や人事担当者がベテラン技術者に伴走し、「月別に立てた計画」と「実施した行動とその成果」について、定期的に時間を作って一緒に確認してください。そうすることで、組織が一体となって技能承継に取り組むことができるのです。

 技能承継をスムーズに進めるには、技術面はもちろん、仕組みや体制づくり、また職場の心理的安全性の確保など、さまざまな対策が必要であることがご理解いただけたと思います。この記事をきっかけに、職場の技能承継に何か1つでも着手していただけましたら幸いです。

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 それでは、また次回の記事にてお会いできるのを楽しみにしております。

(文責:大橋高広)