志士奮迅

【第15回】セル型生産の基本原理になったGT(グループテクノロジー)

 さて今回は、多忙に紛れて1年以上休筆していた「生産管理史~改善の系譜~」の再開である。このシリーズはこれまでも自分の経験や叡智の集大成として取り組んできたのだが、調べごとが多く、手が掛かるので、来月こそ来月こそはと思っているうちに1年以上が経過してしまった。今後は自分に甘えることなく、しっかりと取り組んでいきたいと反省している。

 今回のテーマは、ミトロファノフ(「ミトロファーノフ」ともいう)のGT(グループテクノロジー)である。
ものづくりや改善活動に関与したことがある方ならば、このGTという言葉を聞かれたことがある方が大半であろう。中種中量生産に適していると考えられてきたが、昨今のAIを中心とするDXテクノロジーによって、適する生産形態は変わりつつあり、今後の発展が期待されている分野であるといえるだろう。

 GTの創始者である、セルゲイ・ペトロヴィチ・ミトロファノフ(Sergei Petrovich Mitrofanov)は、1915年ロシア帝国のペトログラード(現在のサンクトペテルブルク)に生まれた。レニングラード第一模範学校(第二サンクトペテルブルク・ギムナジウム)を卒業後、1933年に精密機械光学技術学校、1939年にレニングラード精密機械光学大学(LITMO)を卒業した。その後、国立光学機械工場(後のLOMO)でエンジニア、生産管理担当、代理主任技師などの職務を歴任し、第二次世界大戦中のレニングラード包囲戦の間も現地に留まって生産技術者として働き、戦後に受勲している。

 ミトロファノフの功績で有名なものはGTであるが、GTとは「部品の形状や加工工程の類似性に基づいて類似部品を定義し,部品をグループ化(部品ファミリー)、多品種少量生産を『あたかも大量生産であるかのように』効率化する生産管理の手法」と考えることができる。GTが登場した頃の工場は、機能別配置(旋盤、フライス盤などの設備を機械種類ごとに配置する方法)が主体であったが、この機能別配置には以下のようなデメリットがあった。
①工程の進捗に合わせて、工場内を部品が複雑に移動するため、運搬のムダが発生する
②製品や部品ごとに、機械のチューニング(段取り替え/セットアップ)が発生し、作業の切り替えに時間がかかる
③各工程において加工待ちの仕掛品が増加し、仕掛在庫が増大することを避けられない
まとめると、1950年代当時、多品種少量生産の工場では製品や部品の種類が変わるたびに機械や設備の段取り替え/セットアップの必要があり、それが生産効率向上の大きな障害となっていたということである。この問題を解決する画期的なアプローチがミトロファノフの提唱したGTであった。ミトロファノフは部品形状や加工工程、寸法の類似性を基準にして、類似部品を定義し、部品をグループ化する管理手法を提唱した。彼はグループ化された部品群を「部品ファミリー」と名付けた。GTの原理として、「類似部品の同時取り扱いが設計や生産の効率向上に寄与できる」という考え方を基本に据えている。新製品開発時に、設計段階において、類似形状の部品は設計が類似するという前提を立てれば、類似部品に必要な設計を加えるだけで効率よく設計できる。また生産段階においても、類似部品を加工することによって、段取り時間や回数の削減、また工程間の運搬や工程内における加工待ち時間の減少が実現できる。

 GTにおいて重要となることは、①部品ファミリーの構成、②生産において利用される機械群の編成およびレイアウトの2点である。この2点に対応するために以下のような複数の方式が存在する。
・専門家が現物や図面を見ながら分類する目視調査法
・部品の寸法や形状に基づいてコードで意味づけするコーディングシステム
 H.Opitzが開発したOpitzコード(Aachen 工大方式)
・OR技法やグラフ理論を利用して分類を行う分類アルゴリズム
・現存する図面や工程プロセスなどの情報を利用し、部品ファミリーと機械グループの構成を行う生産フロー分析
・仮想的(架空の)製品を定義し、その仮想製品の形状に関するパラメータの操作から得られる部品群を類推する合成製品法
などが代表的な手法といえるだろう。上記の中でも、仮想的な製品や部品である「複合部品(Composite Parts)」の概念が特長的である。同じグループに属する全部品の特徴を網羅した架空の複合部品を設計し、それに合わせて機械をセッティングすれば、どの部品も段取り替えなし、または最小限の調整で連続的な生産を実現できる仕組みを構築したといえる。この手法により工場内における段取り時間を大幅に短縮し、最大で約80%の時間などの削減に成功したといわれている。

 ミトロファノフはGTの功績により、1959年にソ連の最も高い栄誉の一つであるレーニン賞を受賞し、さらにレーニン勲章も受勲している。彼の著書『機械生産の科学的組織化(Scientific Organization of Machine Production)』は、ソ連や共産圏の国に限らず、ヨーロッパや日本など世界中の国々で翻訳され、近代における生産工学の基盤となった。ミトロファノフの研究を起点としたGTの理論や思想は、ドイツのオピッツ(Opitz)分類法などへと受け継がれ、発展した。さらに、部品ファミリー(類似工程や部品の集約)というGTの理論は現代の製造業におけるFAやAI、IoTを活用した高度なマニュファクチャリング・セルの基礎として現在でも活用されており、「セル生産方式」の直接的な起源や理論的な基礎にもなり、製造業の歴史的枠組みとして継承されている。

 今日では生成AIが登場し、設計にもAIを搭載したCADや設計支援システムが数多く登場している。設計におけるGTの活用はAIにより、より高度な部品ファミリーの設定や、より複雑な複合部品の設計を実現するであろう。高度化されたデータベースは、更に複雑な部品ファミリーの構成・管理を支援する。また高度なスケジューリング機能との連携で、段取り替えを更に削減することも可能であり、GTはDXの登場とともに新しいフェーズに入ったと考えることができるだろう。

 今後のGTとDXの融合には注目して頂きたい。

2026年8月 抱 厚志

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