【第11回】ファヨールの管理の原則「管理過程論」

 この稿が出るころには、桜の盛りは終わっているだろうか?
 寒暖の切り替わりが早くなり、十分に四季を味わうことがなくなってきた昨今の気候ではあるが、やはり春は人の心に温かい。樹下から眺める桜の花と微かに漂う花の香は、三寒四温を抜けて、本格的な春の到来を告げる天地からのサインである。

 我が家の愛犬も今年の11月に7歳になるので、最近は健康づくりのために週末に遠出の散歩をしているのだが、この季節はワンコにとっても楽しいらしく、心なしか足取りがいつもよりも軽快に見える。実際のところは、遠出の散歩で必ず立ち寄るドッグカフェのおやつが楽しみなのかもしれないが。

 さて、正月の能登半島地震の復興が本格的に始まった途端に、今度は隣国の台湾で大きな地震(台湾東部沖地震)が起きた。能登半島地震に比較すると被害規模は小さいが、それでも4月13日現在では17名の方が亡くなり、2人の方と連絡が取れなくなっていて、ここ25年の台湾では最大規模の地震だったようだ。

 これまで日本は何度も大きな震災に直面したが、いつも迅速に、そして一番多くの支援をしてくれたのは台湾であり、そのことは日本でも報道されてきたことだ。それを有難いと感じた日本国民は多かったに違いない。日本には「相身互いの精神」があり、同じ境遇にあるもの同士が助け合う文化がある。今回、被災された台湾には相身互いの精神と過去の支援・義援への報恩の気持ちを示したいと思い、個人的にわずかばかりだが義援金への寄付をさせて頂いた。大陸の中国との関係で難しい局面にある台湾に、今回の被災は泣きっ面に蜂であろうが、ぜひ台湾の皆さんには頑張って頂き、一日でも早い復興を心から願っている。
 冬は必ず、春に変わる。

 さて、今回の生産管理史~改善の系譜~は、ファヨールの管理原則論について紐解きたい。

Fonds henri fayol ジュール・アンリ・ファヨールは、コンスタンティノープルに生まれたフランスの鉱山技師、地質学者であり、経営者としては管理過程学派の創始者で、「管理原則の父」と呼ばれた。フレデリック・テイラーなどと並び、経営管理論の基礎を創ったと評されている。

 ファヨールは鉱山技師として着々と経歴を重ねたが、その会社の経営状況は悪化の一途を辿っていた。1888年にその鉱山会社の社長に就任。巧みな資金調達(増資・社債発行など)、不採算事業の整理、事業の多角化、高収益部門への資本集中などの実践で、倒産寸前だった同社の再建に成功し、1918年まで30年にわたって同社の経営を行った。主著に『産業ならびに一般の管理』がある。

 ファヨールは主著の中で、企業の経営活動(職能)を6つに分類した。
<1>技術的活動(生産、製造、加工)
   新商品開発や生産管理に関する機能
<2>商業的活動(購買、販売、交換)
   マーケティングや調達に関する機能
<3>財務的活動(資本の調達・運用)
   財務管理や資金調達に関する機能
<4>保全的活動(設備および従業員の保護)
   リスク管理や企業の持続可能性に関する機能
<5>会計的活動(財産目録、貸借対照表、原価、統計など)
   簿記や損益管理に関する機能
<6>管理的活動(計画、組織、指揮、調整および統制)
   経営管理に関する機能

 以上の6分類であるが、ファヨールの提唱当時には<1>~<5>については既にその必要性が認知されており、教育カリキュラムの中に取り込まれる場合も多かったが、ファヨールは学校教育の中で、<6>の管理的活動の必要性を説いた。そしてファヨールはその管理的活動を『管理とは、計画し、組織し、指揮し、調整し、統制する5つのプロセス』と定義した。この5つのプロセスをもう少し詳細に記述すると、以下の様になる。

<1>計画・予測
将来やビジョンを検討し、それを実現するための活動計画を立案すること
<2>組織
組織における権限と責任の明確化と付与規定、企業が物的、社会的な二重の組織価値を保有すること
<3>命令
組織に計画を周知、実行させること、従業員を就業させること
<4>調整
企業における全ての活動と取り組みを一元化し、調和させ、最大効力を発揮させること
<5>統制
企業における全ての活動の基準や規定遵守により、命令通りの実施を実践すること
<6>管理
計画し、組織し、指揮し、調整し、統制すること

 またファヨールが、管理とは企業における管理職や責任者など命令権を持つマネジメントの独占的特権でもなく、個人が背負うべき責務でもないとしていることにも注目して頂きたい。<6>管理とは、組織のマネジメント(指揮命令者)とその構成員との間で分担と共有されるべき機能の一つに過ぎず、その他の5つの経営機能(<1>~<5>)とは分けて考える必要があり、端的にいえば、「企業が自由な処分を任せている資源から可能な限りの最大利潤を獲得できるよう、企業本来の目標の達成に向けて、作用させ、指揮・督励すること」と述べている。またファヨールは管理的活動を実践するにあたり、14の管理原則を決めた。

<1>分業:組織を分業化すること
<2>権限・責任:権限を明確にし、信賞必罰による責任の明確化を図ること
<3>規律:外形的象徴として約定の確立を行うこと
<4>命令の統一:担当者は必ず単一の管理者の指揮命令を受ける原則の徹底
<5>指揮の統一:組織目標は単一の管理者と計画の下に業務遂行する原則の徹底
<6>個人的利益の全体的利益への従属:企業全体の利害は必ず個人の利益に優先される原則の徹底
<7>公正な従業員の報酬:従業員への報酬を公正に定め、労使双方の満足に努めること
<8>集権:組織全体として最良の成果がもたらされるように権限を集約、配分すること
<9>階層組織:組織階層を責任中心の配列とすること
<10>秩序:組織としての物的または社会的秩序を守り、資源の適材適所への配置に努める
<11>公正:全ての場面において、人間的かつ社会的正義を前提として行動すること
<12>従業員の安定:従業員の技能習得に対して、中長期的な時間的猶予を考慮すること
<13>創意:計画を立案、実行する。全ての組織階層に自由を与え士気や熱意を高めること
<14>従業員の団結:団結の効能を信じ、組織にとって好ましい調和を創出すること

 ファヨールは以上の14項目を管理原則として定めたが、これは原則であり、絶対的なものではなく、状況や条件などの変動要素を加味した柔軟な経営を目指すべきとのコメントも残している。

 経営論がまだまだ揺籃期にあった当時に、ファヨールは実務的、実践的でありながらも、これまでに無かった科学的かつ理論的な経営管理論を構築した。ファヨール自身は鉱夫上がりの経営者であったが、クロード・ベルナールの実証主義哲学に通暁しており、このことが単なる実務の書ではなく、科学的な理論として伝承されていく理由になったと考えられる。

 ファヨール死後、主著『産業ならびに一般の管理』は1929年アメリカで翻訳・出版されて高い評価を受け、その後、管理過程論が開花した。科学的管理法を提唱したフレデリック・テイラーが工場現場の管理を主たるテーマとしたのに対し、ファヨールは企業や行政など、すべての組織の管理原則をテーマとしているので、今日の経営学のルーツはファヨールとすることが主流と考えられている。管理過程論は、テイラーリズム(テイラーの科学的管理法の承継理論)との対比を繰り返しながら、リンダール・アーウィックなどの優秀な経営学者たちによって継承され、さらに発展していく。アーウィックは自身の著書にもファヨールの管理論を積極的に取り上げ、その普及に大いに貢献した。その後、イギリスのニューマンや、アメリカのクーンツとオドンネルらは、ファヨールの管理論を過程論的接近法との融合により、新たな経営学領域として確立し、経営学のルーツとして現在に至っている。

 余談になるが、ファヨールは地質学者としても、三角州における堆積学などの研究で高い評価を受けており、炭鉱火災防止のための研究で何度も受賞していることを付記しておきたい。

2024年 4月 抱 厚志

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