2018年はIoTものづくり時代の幕明け

明けましておめでとうございます。
昨年は格別のお引き立てを賜り厚く御礼申し上げます。本年も倍旧のご愛顧をお願い申し上げます。


「光陰矢の如し」
 今年58歳を迎える私には非常に現実味のある言葉である。
小学校の6年間などは永遠に時間があるのかなどと思っていたが、社会人になってから、特に会社経営を始めてからの時間の経過は驚くほど早く感じる。
 それだけに、自分に与えられた時間に真摯に向き合い、時間の経過の早さ以上に己の内の充実感を満たしながら生きていきたいものだ。

 2018年の景況予測は概ね良好である。大手シンクタンクの予測を取りまとめてみた。

世界経済については

“世界経済は2018年にかけて拡大基調を維持。中国経済は減速するも、潜在成長率を上回る先進国経済や資源国の回復、アジアではASEANの内需やインドの持ち直しなどが下支え。”
(みずほ総合研究所「2017・18年度 内外経済見通し」2017.11.16)

“米国は、トランプ政権の政策運営が引き続き難航すると想定するが、良好な雇用環境を背景とする消費の堅調などから、緩やかな拡大が続くと予想する。(中略)ユーロ圏は、雇用・所得環境やマインドの改善による消費の堅調を背景に、緩やかな回復が続くと予想する。(中略)新興国は、中国の成長鈍化による外需の減速が下押し要因となるものの、物価の安定を背景とした内需の拡大により、総じて堅調を維持すると予想する。中国経済は、共産党大会前に実施された景気刺激策の効果剥落などにより、投資を中心に成長減速を見込む。もっとも、権力基盤を固めた習政権は、経済へのコントロールを強めるとみられ、構造調整に伴う経済の急失速は回避されよう。”
(三菱総合研究所「2017、2018年度の内外景気見通し」2017.11.16)

“経済活動の世界的上昇は強まっている。世界経済の成長率は2016年は世界金融危機以来最低の3.2%だったが、2017年は3.6%、2018年は3.7%へ上昇すると予想される。2017年、2018年の予想数値は、両年とも2017年4月の世界経済見通し(WEO)の予測より0.1%ポイント上回っている。ユーロ圏、日本、新興市場アジア諸国、新興市場欧州諸国、そして2017年の上半期の成長率が予想を上回ったロシアなどでの幅広い予想の上方修正が、米国と英国の下方修正を相殺して余りあった結果だ。”
(IMF‐国際通貨基金「世界経済見通し」2017.10)

 総括すると、中国の景気後退のリスクはあるものの、米国、ユーロ圏、ASEANなどの景気拡大に牽引されて、世界経済は上昇傾向にあると言えるだろう。
 そして我が国の景況予測を見てみると、2017年7-9月の景況の上方修正や世界経済の拡大に牽引され、緩やかな上昇傾向が予測されている。

“〇日本の衆院選は与党圧勝、アベノミクス継続で人づくり革命など与党が掲げた政策が具体化へ。幼児教育無償化は妥当な政策だが、この機会に幼児教育の制度や質を変えるべき。
〇2017年度の日本経済は内外需バランスの取れた景気回復に。2018年度は輸出が減速するものの、内需が堅調に推移し、潜在成長率上回る成長維持でバブル崩壊からの出口を視野に。
〇日本のコアインフレ率は、 エネルギー価格の前年比プラス幅が拡大し、一時的に1%弱に。一方、 エネルギー価格の影響を除く基調的なインフレ率は、緩やかな改善にとどまる。”
(みずほ総合研究所「2017・18年度 内外経済見通し」2017.11.16)

“生産の増加基調に変化なし。企業活動をみると、11月の鉱工業生産指数は、前月比+0.6%と2ヵ月連続で上昇。半導体製造装置や、スマートフォン向けの電子部品・デバイスなど、幅広い分野で上昇。12月の生産見通し(経済産業省先行き試算値)も、同+1.8%と増産を計画。2018年1月の予測指数が、中国の小型自動車減税終了などの影響で下振れているものの、全体としては、輸出増加などを背景に増産傾向が続く見通し。輸出は増加基調。地域別にみると、スマートフォンの需要拡大等を受けて、アジア向けの電子部品・デバイスや半導体等製造装置などが増加したほか、米国向けの自動車や自動車部品も増加。”
(日本総合研究所「日本経済展望」2018.1)

“2018年度も景気の回復は続き、実質GDP成長率は前年比+1.1%と4年連続でプラス成長を達成しよう。オリンピックを控えたインフラ建設などの需要の盛り上がりや、首都圏での再開発案件の増加などが景気の押し上げ要因となる。また、海外経済の回復の継続を受けて輸出の増加が続くほか、設備投資は企業業績の拡大を背景に人手不足への対応のための投資や研究開発投資の増加が続くであろう。個人消費も底堅さは維持できる見込みである。”
(三菱UFJリサーチ&コンサルティング「2017/2018年度短期経済見通し」2017.11.16)

“堅調な世界経済を背景とする輸出・生産の回復や、雇用・所得環境の改善による消費の持ち直しを背景に、日本経済は、年率 1%程度の成長を持続できると予想する。16年度第2次補正予算による押上げ効果は、17年度後半には剥落していくものの、内需の前向きな循環が回り始めていることから、18年度も消費や設備投資を中心に底堅い成長を見込む。ただし、世界経済の下振れリスクが顕現化すれば、日本経済の緩やかな景気回復シナリオにも負の影響が及ぶであろう。”
(三菱総合研究所「2017、2018年度の内外景気見通し」2017.11.16)

 と上記のように、北朝鮮問題や中国共産党大会後の中国経済の減速、割高感が強まる株価の調整などのリスクを抱えながらも概ね上昇気流にあると言えるだろう。
 2017年度の成長率は+1.5%、2018年度は+1.2%と予測する向きが多く、ITをはじめとする設備投資が活性化してくると考えられる。

 少し視点変えて、技術革新の目覚ましいITの2018年とそれ以降はどうなっているのだろうか?

 大手のIT調査会社から2018年以降のITトレンドの予測が出ているので、気になったものをいくつ紹介してみたい。

「AIは奪う以上の仕事を創出するであろう。」

 昨今のAIの技術革新は急速であり、その実用化は大企業のみならず、中堅・中小企業にも拡がりつつある。コグニティブ/AIシステムが普及期に入り、2018年には2017年の2倍に市場が拡大するという見方もある。

 伊勢神宮近くにある老舗の土産物店が画像処理の学習済みAIサービスを導入し、店内のネットワークカメラの来店客映像から、性別、年齢、グループの人数やその来店客が以前に買い物をしたことがあるかを推定し、最終的には来店客の表情(笑顔)の分析から、その満足度までをランク付けすることにより、店内のレイアウトや来店客数予測などを行っているとの記事を見たことがある。

 このシステムが発展すると、来店客の識別情報や購買履歴がマッチングされ、効率よい顧客対応が可能となり、顧客の土産物店に対する評価やロイヤリティも向上するものと考えられる。
 これは人間の記憶だけでは実現できなかった顧客対応をAIの利用により実現させた実例であり、シンギュラリテイなどで語られる「AIが人間の仕事を奪う」という危惧とは異なるものと言えるだろう。

 現在100点ある仕事の50点をAIが代行すれば、人は50点の仕事を奪われたことになるのだろうが、100点が仕事の完成形ではなく、より高位にある200点の仕事の形(今まで実現できなかった)を追求することができれば、50点をAIに委託し、新たに100点の仕事を生み出したことになる。
 AIに代行させた仕事がアナログからデジタルに変わり、質を上げれば、これまで実現不可能もしくは見えていなかった200点へのアプローチが一気に加速する可能性がある。
得てしてアナログをデジタルに置換すれば、全体最適のプロセスが加速し、領域や質が大幅に向上することがある。

 またAIやIoT、ロボティクスなどのデジタルに寄れば寄るほど、人にしかできないアナログな仕事を作り出そうとする流れも社会の循環ではないかと思う。

 そのためにデータに意味を持たせて情報化し、情報の因果関係から知見を見出し、それを経営や現場に活かす感性をもったデジタルイノベーション人材の育成が重要なのである。
 デジタルイノベーション人材とは、AIやIoTなどの最新技術に隷属したり対立したりする人材ではなく、最新のテクノロジーとの協働で仕事の種類やアウトプットの量・質などを立体的に拡張していくことができる人材である。

「これからの情報システム部門にはスペシャリストではなく、ジェネラリストが求められる。」

 これには同感であり、最近、その重要性が増していると感じる。
従来の情報システム部門はIT技術をもって、企業や部門のニーズに応えることが使命であった。換言すれば、部門や現場のニーズに応えてさえいれば社内的価値は高かったし、それが部門最適の域を出ないものだとしても現場からは重宝がられた。

 しかしスマート工場において、部分(部門)最適だけでは情報システム部門の対応として不十分なのである。企業が収益性を高め、成長を続けていくためには部門最適の集合体では限界があり、求められる全体(全社)最適は社内のみならず、サプライチェーンやデマンドチェーン、国境を越えてグローバルを網羅した全体最適でなければならないのだ。

スマート工場では
 1.設備間の連携と同期及び最適化
 2.工程間の連携と同期及び最適化
 3.作業者の連携と同期及び最適化
 4.設備と作業者の連携と同期
 5.部門間の連携と同期及び最適化
 6.事業所(工場)間の連携と同期及び最適化
 7.企業(クライアントやサプライヤー)間の連携と同期及び最適化
が重要となってくる。
 これらの連携の原単位が「プロセス」だとすれば、プロセス間の連携こそが重要であり、これからのIoT(Internet of Things)は、IoP(Internet of Process)に発展・変化してくるといえるだろう。

 そこで情報システム部門に求められるものは、部分最適を実現するITスキルは当然であるが、1~7の繋がることを実現するためのマーケティング、営業、設計、調達、製造、サービスなどのバリューチェーン全般にわたる業務知識や財務、人事、法務、場合によっては経営などのスタッフ・経営部門の業務内容であり、最終的にはそれらを調整し、情報をもって繋げる技術である。
 これはITスペシャリストではなく、プロセスの最適化デザイナーまたはコーディネーターというジェネラリストといえる。

 ゆえに情報システム部門は社内で孤立するのではなく、積極的な連携姿勢が必要であり、組織改革やプロセス改革の推進者としての役割が求められるようになるだろう。
 これからの成長企業には有能なCIOとコンサルティング能力のある情報システム部門、そして現場にデータサイエンスを根付かせるデジタルイノベーション人材の組み合わせが必要になるのではないだろうか。

「クラウド型EDIサービスは2021年にかけて年平均9.8%成長。」

 2024年に向けて、EDI(電子データ交換)の普及が加速しそうな勢いである。
 製造業・流通業を中心とした現在の企業グループ内の垂直統合型EDIネットワークは、従来の紙ベースでのデータ交換であったFAXに代わるものとして、大手企業を基点に据えた形で構築されてきたが、回線はISDN(INSネットディジタル通信モード)といわれる公衆交換電話網「PSTN」を利用している。

 しかし交換機など機材の老朽化、維持費の高騰、通信を取り巻く環境の変化などにより、PSTNの維持限界がきており、東西NTTは2021年から順次、IP交換網への移行を開始し、2024年1月には現在のISDNを終了すると発表した。

 問題は現在のEDIの多くがPSTN上で稼働していることであり、これは2024年1月から基本的には利用ができなくなるということである。
 これが一般に言われる「2024年問題」である。

 2024年までまだ時間があるように思われるかもしれないが、EDIは個社だけが対応すれば問題が完了するわけではなく、EDIで繋がっている企業すべてが対応しなければならないので、テストやインプリメンテーションなども含めれば、準備~切替実施~運用開始までに相応の期間が必要であることは間違いない。
 このような状況を鑑みて、切り替えの準備は用意周到な早期からの取り組みが重要である。

 スマート工場やi-SCM(知的サプライチェーン)などについていわれている現在、2024年問題を契機に「つながり方改革」=EDIシステムの入れ替えを検討する企業が増えている。
 ゆえに「クラウド型EDIサービスは2021年にかけて年平均9.8%成長。」といえるのである。

 1999年に社会問題になった「2000年問題」では企業の問題対応姿勢により、2000年以降、大きな企業間格差を生んだ。
対応が後手に回り、とりあえず1999年のシステムの数値計算ロジックだけを2000年対応すれば良しとした企業と、数年前からシステムの刷新、それに伴う新しい社内プロセスの構築を行った企業との間には、その後のリーマンショックでのシステム化投資抑制時期を含めれば、情報戦略において10年以上の格差が生まれたといっても過言ではない。
 2000年問題を改革の機会と捉えなかった企業は、結局20年以上、同じシステムを使い続け、高度情報化が求められる経営環境の変化に対して後手に回らざるを得なかった。

 今回の2024年問題も本質は同じであろう。
回線だけを変えようとする企業とこれを契機にスマート工場化で新しい価値を創出しようとする企業では、2025年以降に大きな企業間格差が生まれることは間違いない。

 中小企業庁も平成28年度第2次補正予算「経営力向上・IT基盤整備支援事業(次世代企業間データ連携調査事業)」として大きな予算を計上した。
 ここにおいては世界標準EDI辞書である「国連CEFACT」に準じた共通EDI手順を開発し、最終的には金融EDIとの連携で、金融決済も行うことを模索している。
 こうなれば、取り引きは「電話やFAXで十分だ」などといっていた企業も対応を検討せざるを得なくなるだろう。FAXでは、金融決済はできないのだから。
 皆さまにも2000年問題と同じ轍を踏まぬよう、2024年問題を成長の機会に変えて頂きたい。

 2018年には他にも非常に刺激的な予測があるが、ここ数年のIoT、AI、ロボティクス、3Dプリンタなどの技術革新をみていると、その予測に一定の現実味を感じる。
 少なくとも情報戦略の一端にこうした方向性や可能性を加味しておく必要があるだろう。

 個人的には2018年は「IoTものづくり時代の幕開け」だと考えている。
 これまで培われてきたIoT技術が各種のデータ解析、利用技術の向上により、ものづくり経営に有益な手段となる可能性が見えてくる一年になるのではないか。

 経営の5大要素は「人、モノ、金、技術、情報」であるから、それぞれの経営リソースにIoT活用を前提としたプランが必要になってくる。
人 :IoTデータを活用できる現場のデジタルイノベーション人材の育成
モノ:IoTがバリューチェーンに深く関わる製品、サービスの開発
金 :IoT投資を利益に変える全社もしくは企業間の仕組みづくり
技術:IoTで収集した情報を知価に変える技術
情報:IoT時代に対応する情報戦略と製品戦略
などがキーワードになると考えている。

 Industry4.0やIndustrial Internet、コネクティッド・インダストリーズなど、まだ自社に関係ないと考えていた中堅、中小製造業にも間違いなく対応が求められるようになるであろう。

 これからのものづくり経営のキーワードは「つながる」であることは以前に書いた。
 誰とどのようにつながり、どのような情報交換を行うかが企業価値を決める時代がやってくる。2018年はそのようなトレンドが具現化するようになるのではないだろうか。

 弊社ではこうした経済やITのトレンドを十分に認識し、「価値あるつながり」を創成する製品・サービスづくりに鋭意研鑽を重ねて参る所存です。
 中でも、知的ものづくりプラットフォーム「EXtelligence」には、一層の機能充実に取り組みますので、本年も引き続きご注目をお願い致します。

末筆ながら、皆さまの益々のご発展と日本のものづくりの隆盛を祈念申し上げます。
本年も宜しくお願い致します。

2018年1月 抱 厚志