PDX(パーソナル・デジタルトランスフォーメーション)を考える<1>

 2021年12月、新型コロナの感染拡大が始まって以来、2度目の年末である。12月は師走というが、「師」とは僧侶を指し、「走る」とは多忙な様子を表すらしい。普段、落ち着いて見える僧侶が、なぜ12月に走り回るのかといえば、毎年、歳末には仏名会(ぶつみょうえ)という法要があるからだということだ。新型コロナの影響で仏名会も減っているだろうから、現実的には師も走らない12月になっているのかもしれない。

 さて、2025年に向けて、DX需要が高まっている。
もちろんDXとはデジタルトランスフォーメーションのことであり、最新のデジタル技術を用いて、自社のビジネスモデルを革新することである。

 一般に「2つの2025年問題」と言われ、2025年に向け2つの大きな問題を抱えているが、その第1の問題は「人口の高齢化による労働力不足」である。これは2025年に団塊の世代800万人が75歳の後期高齢者となり、日本は超高齢化社会となること指す。労働人口が減少し、社会保障の負担が増すこととなる。

 第2の問題は「2025年の崖」である。経済産業省の『DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~』で論じられたのが2025年の崖であるが、簡単にいうと、このままDXが進まず、企業がレガシーなシステムやビジネスモデルを継承すると、日本に年間12兆円の経済損失が発生するという問題である。

 いずれにしても2025年が社会や企業にとって大きな分岐点になることは間違いなく、この企業経営の分水嶺ではDX推進が成否の分かれ目となる。弊社でも自社業務プロセスのスマート化を目的にDX推進プロジェクトが推進されているが、DXは必ずしも企業の課題だけであるわけではない。企業は個人が組織として集まって構成されている訳であるから、DXの基本単位は個人であると考えることができる。

 個人が仕事の効率化や品質の向上などを目的に作業をデジタル化することを、私自身はPDX(Personal Digital Transformation)と呼んでいる。

 2025年問題、新型コロナや働き方改革などの影響で近年は自分自身の働き方も変わってきていて、自分自身のスマート化(デジタル化)を進化させる必要性を強く感じている。仕事においては、デジタルでのコミュニケーションが増えたので、作成する資料が増えたり、気になる情報を即時保存したり、テレワーク時においての集中力の維持やタイムマネジメントなどに対応しなければならなくなってきたので、PDXのツールを検討し、実際に自分の作業に導入している。

 私自身がPDXで利用しているツールについて、数回に分けて紹介させて頂きたい。

 まずは最近、特に大いに感じていることがプレゼン資料作成プロセスの効率化の必要性だ。
個人的にはWebミーティングやウェビナーの回数が圧倒的に増えた。大学の講義もオンラインで行い、非接触でのコンタクトが増えたので、意思を確実に伝えるために、資料を作成する機会が増えた。

 プレゼンや打ち合わせの資料はPower Pointで作成することが多かったが、今回のPDXを検討する機会に、ほかのプレゼンツールも使ってみた。

 最初は「Prezi(プレジ:https://prezi.com/ja/)」
 Preziは、全世界で8000万人のユーザーを持ち、米国企業の売上高上位500社の75%で採用されている新感覚のプレゼンテーションツール。Webミーティングでは、画面を共有すると資料が全画面表示され、通常、発表者は画面サイドの小さなウィンドウに表示されるが、Preziでは発表者が全画面に表示され、画面上の発表者の映っていないスペースにプレゼン内容が表示される。言い換えれば、発表者はプレゼン資料の後ろに隠れる必要がないので、より動的なプレゼンテーションが可能となる。自分自身とプレゼンを一つの画面に表示できると捉えて頂いて良い。Zoomはもちろん、Microsoft Teams、Cisco Webex、Google Meetなどメジャーなウェブ会議システムに対応している。

 Preziは従来のプレゼンテーションツールと異なり、画像や動画、音声、さらには既存のPowerPointさえも無限に拡がるホワイトボード上にレイアウトし、伝えたいことをビジュアライズして、映画やCMのようなカメラワークで観ている人を視覚的に先導できるツールと紹介されている。一番人気の「Plus」というプランの利用料は月額7ドルであり、リーズナブルである。

 2つ目は「Canva(キャンバ:https://www.canva.com/ja_jp/
 社内などの打ち合わせで、簡単に手早くプレゼン、説明資料を作成したい場合に利用したいツールである。

 Canvaはプレゼンテーション作成ツールだが、
1.25万点を超える無料テンプレート
2.100種類以上のデザインタイプ(ソーシャルメディアの投稿、プレゼンテーション、手紙など)
3.数多くの無料の写真とグラフィックス
などが準備されていて、これらを利用すると圧倒的なスピードで資料作成できる。また優れたGUIなので、マニュアルなどを読み込まなくても、感覚で利用することが可能なことが特長である。作成した資料は最終的にPowerPointに変換でき、メンバー間でデータの共有も可能なので、チームでの共同資料作成も可能である。出来上がりのきめ細かさはPowerPointには及ばないが、社内や急ぎの社外資料などでは十分で、大きな効果を発揮する。利用料は「プロ」というプランで月額1500円(5人まで利用可能、年間プランも有り)。

 話は変わるが、皆さんは「Microsoft PowerPoint」に精通しておられるだろうか?
実はPowerPointには驚くべき程、たくさんの機能が装備されており、我々が普段利用しているのは、全体の5~10%程度ではないだろうか。定期的に機能強化が実施されており、プレゼンテーションツールでは、間違いなくナンバーワンツールといえるだろう。

 昨今はZoomやTeamsなどのオンラインでのミーティングやプレゼンが増え、その場合、プレゼンの手法や表現が非常に重要であり、聞き手の興味を喚起しつつ、正しく内容を伝えなければならない。プレゼンのスマートさや資料の分かりやすさインパクトなどがプレゼンでの勝敗の分かれ目になることもあるのではないだろうか。私自身、これまで20年以上PowerPointを利用してきたので、一通りの操作法を理解しているものと自認してきたが、それは誤りであり、前述のように全機能の数パーセントしか利用できていなかったことが、今回の学び直しで分かった。

 PowerPointの学び直しに関しては、以下のポイントが重要であると思う。
1.より効率的にプレゼン資料を作成するための操作の学び直し
2.より成果のあがるプレゼンストーリーやデザイン、配色などの学び直し
の2点である。
1.に関してはPowerPointのアップデートの中で開発されてきた追加機能によるものが多い。よく利用される操作はショートカットが提供されていたり、デザインなどもPowerPoint自体が外部のネットワークに接続されることによって、豊富なテンプレートにアクセスできたりなど本当に進化が著しい。肩に力を入れて、眉を吊り上げながらマウスを操作し、図形の整頓などを行っていたのは随分昔の話で、いまはショートカットひとつで図形の配列がコントロールできたりする。最新の機能を理解していれば、これまで何分もかかっていた操作を一瞬で終わらせることもできる場合があり、知らないうちに非効率なオペレーションをしているという事こともあるということだ。

 2.についてもアシストしてくれる機能が充実してきている。基本的な配色やデザインのテンプレートがあるし、レイアウトに関してもサポートしてくれる機能がある。私は文章を書くのは得意なのだが、プレゼン資料など図表や要約、流れを書くことが苦手であり、自分自身もセンスがないと分かっている。しかしアシスト機能を使えば、一定の出来栄えのプレゼン資料を作成することができる。

 繰り返しになるがオンラインではプレゼン資料やストーリーは非常に重要である。文章の羅列で黒文字の中で強調したい事をさまざまな色や強調で示すだけの資料は時代遅れなのだ。

 今回のPowerPoint学び直しには、以下の2つのYouTubeチャンネルを利用した。
 1.ザ・プレゼン大学
https://www.youtube.com/channel/UCL4pNY8SkSg2evyZQHLjWwg
 2.パワポデザイン大学
https://www.youtube.com/channel/UClhhKCmaljjspnld_RoIybw

 1.はPowerPointの操作のみならず、シナリオや話し方などプレゼンに必要なスキル全般にも言及している。もちろんPowerPointの最新の機能についても触れてくれるので、バランスよくプレゼン力を向上させることができる。

 2.はPowerPointの操作に特化した構成になっていて、例題を使い、細やかなオペレーションを再生しながら説明してくれるのが有り難い。テーマごとの動画終わりに「まとめ」があるので理解度を深めることもできる。

 1.2.共に、1つのテーマは5~10分程度の動画で説明されるので、テンポよく学ぶことが可能だ。私は上記の動画で、自分がどれほど無駄なオペレーションをしていたのかを思い知らされた感がある。ぜひ一度、2つのチャンネルを覗いて頂きたい。

 今回は自分のDX(PDX)の中でも、プレゼンテーションのツールについてお薦めのものを列挙してみた。まだまだ他にも魅力的なプレゼンツールがあると思うので、読者お薦めのツールがあればご教示願いたい。次回は「情報整理、デジタル・ワーキング・スペース」などのお薦めのツールを紹介してみたい。

 新型コロナもオミクロン株の登場で、また予断を許さない状況になってきたが、人類は必ずこれを克服できるものと信じている。先日もJPモルガンが、2022年の経済の完全回復予想を発表したが、このように世の中は暗い話ばかりではない。一人ひとりがしっかりと感染予防措置をとることが一番重要なことで、読者の皆様にも自愛専一の毎日をお勧めしたい。

 さまざまな思いを秘めながら、2021年は暮れてゆく。
 2022年はきっと明るいと信じながら。

2021年12月 抱 厚志