計画自体が目的になる事はありえない
「ものづくり論」についての考察 Part6
生産管理システムとはPDCAを回し続けることであるが、
その中でも重要なものはP(計画)とA(措置、対策)である。
この2つは相関関係にあり、計画が柔軟であると、対策には敏捷性が発揮される。
また計画を立てるという事は、仮説を立てながら行動するということであり、
物事を分断して実行する日本人が苦手な事のひとつであると言える。
計画は相応の結果を出すための青写真であり、地図であり、
現場の目的意識を統一する手段であるのだが、
日本の企業には「計画を立てること自体が目的化」してしまっている例を散見する。
もちろん計画は達成される事を前提に立案しなければならないが、
その前提に強くこだわるが故の積極性の欠如などを感じる場合がある。
しかし企業経営のあらゆる場面に計画は登場することから、その重要性は計り知れないだろう。
今回はものづくりを構成する「計画」について考察を行ってみたい。
工場にはとりあえず「計画」と名の付くものが多い。
工場のリソースを最大限に引き出し、
顧客の要求に応える納期や品質には計画は必須だと言えるだろう。
しかし「計画の本質」を理解した上で立案されている計画は、
それほど多いようには思えないのは筆者だけであろうか。
生産計画、工程計画、品質計画、原価(利益)計画などの管理すべきドメインに付随する計画、
大日程計画、中日程計画、小日程計画などの時間軸に関連する計画、資源計画、資材所要量計画、能力所要量計画、設備計画などリソースに関連する計画など、計画を分類する切り口はいくつもあるが、これらに共通しているのは「人・もの・金」の最大活用と言う目的であり、その方法論を具体的に展開するための手法であると言う認識であろう。
基本前提となる経営計画を上位に、MPS(基準生産計画)、
MRP(資材所要量計画)やCRP(能力所要量計画)などが中位を形成し、
工程計画や品質計画などが現場に一番近い下位を構成するが、
これらの各計画は相関関係を持ちながら「階層構造」となっている。
一番上位の計画の変更は、そのまま下位へと反映され、
下流における計画の消し込み(達成)によって、上位の計画の消し込みが行われる。
計画の下請け構造とも言えるだろう。
しかしこの階層構造における計画の噛み合わせがまずい時には、
事業としての最大のトルクを引き出すことはできない。
事業として、大きなトルクを引き出すためには計画の特性を正しく理解することである。
ここでは計画が持つ、忘れられがちな特性、留意事項をあげてみる。
1.能力の限界に挑戦する意欲の欠如
前述したが「計画を守れないのは悪」と言う脅迫観念がもたらす、
攻撃性のない守備的な計画の事であり、
言い換えれば「できることしか計画しない」と言う姿勢の問題である。
計画は達成されるべきであるが、自己の限界の少し外側に目標を置かなければ、
組織としての成長がない。
計画とは少しチャレンジングでなければならないものではないだろうか。
人や組織と言うものは、自己の限界を少し超える努力に創意や工夫を凝らすものだ。
たいした努力もせずに達成できる計画では、現場の緊張感を失ってしまい、
モチベーションの維持も難しくなる。
計画には少し攻撃的な側面を残す事が重要である。
2.「綿密な計画」と言う語呂の良さの罠
「綿密な計画」と言う言葉は常に肯定的であり、耳ざわりがよいが、
ここに計画の大きな罠が隠されている。
計画は綿密であればあるほど良いというのも確かにひとつの正論だが、
計画には「綿密になるほど、変更や取り消しには弱い」と言う側面があることも認識しておかなければならないのではないだろうか。
計画に遊びと言う「バンパー」がない場合は、不測の事態への対応力が減少する。
綿密な計画と言う語呂の良さに釣られて、綿密すぎる計画を立案する事は、
組織の状況対応力を低下させてしまうと言うことを理解すべきである。
「限界の向こうに挑戦する計画」と「綿密すぎる計画」は異なるものであり、
全く本質が異なるものである。
計画が絵に描いた餅に終わらないためにも、不測の事態に対応できる余力を持たせるべきである。
計画は地図であり、地図には用途に応じた縮尺があることをご理解頂きたい。
3.手段ではなく、目的化する計画立案
計画はあくまでも成果を出し、目的を完遂するための手段である。
しかし現場にはそうした原点が忘れられた計画を発見する事が多い。
計画の立案自体が目的に据えられてしまっている場合である。
計画を重視することは必要であるが、
計画はあくまでも手段の域を出ない事を強く認識すべきである。
立派な計画を立てることよりも、計画を駆使して、成果を出す事の方がはるかの重要なのである。
手段と目的ではアプローチの仕方が異なるし、掛ける時間や品質も全く違うものである。
このポートフォリオを間違えば、大変なことになる。
昨今の工場経営では「計画重視」がデフォルメされ過ぎて、
計画と実績、現場と事務所が乖離してしまう場合がある。
計画は実績を導き出す手段であり、現場主体で運営されるべきものである。
4.計画はフォローや再評価があってこそ生きるもの
生産管理の基本はPDCAを回す事にある。
計画をより実践的なものにブラッシュアップして行くためには、
計画の予実比較(計画と実績の比較評価)が重要であり、
計画の実効性の評価をするための基準が必要である。
計画にはBetterはあっても、Bestはない。
少しでもBestなものに近づけてゆくためには必ず計画の評価が必須、
その評価の為には計画を立案者が常に状況をフォローし続ける事である。
適切なフォローに基づいて、計画はよりBetterな形を求め、
PDCAをまわし続けることが必要である。
5.計画は変更されて当たり前
立てた計画に固執する事は大きな過ちに繋がる場合がある。
4でも述べた様に、計画は適切にフォロー、再評価されなければならないが、
その評価のなかで変更が求められる計画に対しては、
一度立てた計画にこだわる事なく積極的な変更が必要である。
計画に変更が生じずに、そのままの形で実行されればベストであるが、
現実は計画通りに進まない事が多く、計画は変更されて当たり前だと考えなければならない。
ここで重要な事は、
「計画と実績の差異が発生した場合の初期計画維持に対する許容範囲」と
「変更に対しての実施手順」の2点の明確化である。
一歩進めれば、計画変更はあると言う前提で、
変更の容易な計画を立てることも視野に入れる方が良い。
変化する環境への対応には組織の敏捷性が必要であるが、それには3つの敏捷性が含まれる。
「戦略の敏捷性」、「オペレーションの敏捷性」、そして「ポートフォリオの敏捷性」である。
これらの3つの敏捷性の維持のためには、適切な計画の変更が必要である。
状況変化に応じた計画変更は組織の敏捷性を高めることになる。
しかし計画変更を是認する余り、安易な計画立案や計画達成の意思の欠如は望ましくない。
あくまでも最大限の計画達成への努力が優先されるべきであることを忘れてはならない。
前述したように「計画」はあくまでも目的を効果的に達成する手段であり、
計画自体が目的になる事はありえない。
しかしPDCAのサイクルにおける起点であり、成果を期待できるアクションのためには、
計画の精度や浸透が重要であることは間違いがない。
計画には「権威」があり、殆ど「努力目標」に近い緩やかな計画もあれば、
「命令」に近い強制力を発揮する計画もある。
どちらが正しいのではなくて、状況や達成されるべき目標に応じて、
計画の権威を使い分ける事が重要だと言える。
日々、簡単に口にする「計画」と言う言葉も、これを機会に再吟味して頂ければ幸甚である。