これからの製造業の現場では、ものを作るだけでは責任は果たせない


「ものづくり論」についての考察 Part7

前回はPDCAにおける計画の特性や求められるものについて説明した。
PDCAはものづくりの基本であり、
その起点となるP(計画)の重要性については認識して頂けたものと思う。
引き続き今回は計画と対をなすD(実施)について、実績の収集方法を中心に論じてみたい。

計画は達成度に応じて、日報などを通じて、進捗の消し込みを行わなければならない。
もちろん進捗に応じて、計画自体の変更が必要な場合もあり、
「計画に敏捷性」のある製造業は、それ自体がひとつのコンピタンスである。
計画を消し込むためには、現場からの実績情報の収集(日報)が必要であるが、
この実績の収集を大きな目的とするのが生産管理システムである。

しかし、生産管理システムにおいては、
この実績収集(言い換えれば現場の参加)が相変わらずネックになって、
稼動に至らないシステムが多いのも事実であろう。
工程管理にしても、原価管理にしても、
現場からの実績収集が最重要課題であることは間違いがない。
しかし残念ながら現場から収集されるデータの精度の低さとタイミングの遅れゆえに、
所期の目的を達成できない製造業が多いのも事実である。
まず認識しなければならないのは、
「実績収集」は「計画(指示)のメッシュ」と非常に密接な関係にあると言うことである。
綿密な計画を立てれば立てるほど、それを消し込みために求められる実績情報の収集や入力作業も比例して増加する。

しかし現場の主たる役割はもちろんものづくりであるから、
報告(実績入力)はあくまでも補助的・間接的な作業として認識されている。
場合によってはひどく面倒な作業として、現場の協力を得にくい状況となる事もあり、
日報入力は生産管理システム構築時の大きな山場と言える。
現場の協力を得ながら、この大きな山場を切り抜けるためには、
まず第1に「実績を収集する目的」を明確化することである。
製造と言う直接作業だけでも大変な現場に、日報と言う間接的な作業を追加する目的を明示し、
その必要性に賛意を得る事が重要であろう。
これは企業のトップ自らの説明が望ましい。
トップの明確な意思表示無くして、現場の意識改革を実施することは難しい。
改革とはモチベーションであるので、
日報の必要性を業務としてオーソライズすることは必須であると言える。

第2に「実績を収集する手段や方法」を提示することである。
最近ではバーコード、QRコード、RFID、POP端末、MES端末などを利用した多様な手法があり、
現場のレベルや収集する情報内容によって、適切と思われる手段を選択すればよい。
しかし、ここで留意すべき事は、こうした手段が全てを解決してくれるのではなく、
あくまでも現場の主体性を補い、入力作業自体を簡便化するものであり、
やはり現場の強い達成意欲がなければ実績収集が進まないということであろう。
後述するが、収集する実績の項目を検討する必要がある。

第3に「実績収集の効果や成果のフィードバック」を実施することである。
現場の強力を得るためには、現場にも相応のメリットが無ければならない。
日報を入力し、工程管理が実現すれば、現場はどう変わるのか。
この「フィードバック=見える化」によってどのような成果があがるのか。
個別原価計算が実施されれば、現場にどのようなメリットがフィードバックされるのか、
などをしっかりと事前設計しておく事だ。
改善やシステム構築において現場とは常に何らかのトレードオフを進めてゆかなければならない。
この場合は入力作業の追加と引き換えに、
現場にどのようなメリットを提供するのかを決めることである。
これができないと全員参加の前提が崩れてしまうし、長期的な継続が見込めない。
PDCAは長く回してこそ、大きな結果を創出できるのである。

また前述したように収集する実績情報の項目を決めなければならない。
これは通常、達成すべき目的や計画の綿密さに合わせるが、
基本的に日報の項目にはセオリーがあり、主たる項目は以下のようなものが考えられる。

1.作業の完了報告
計画から発令された指示のステータスである。作業が完了したのか、
着手中なのか、未着手なのかを報告するが、
通常は着手・完了の2つを入力する事によって捉えることができる。

2.投入した作業工数
指示されたオーダーに対する作業時間のことである。
工程において消費された時間の報告であるが、原価管理上、
A:マンチャージ(人工)、B:マシンチャージ(設備稼働時間)の
2タイプに分けて考えておく必要がある。
また上記の2タイプについても、段取り時間、作業時間に分けて収集する。
更に段取り時間も内段取りと外段取りに分け、作業後の後処理時間を収集する場合もある。
もちろん停止時間や休止時間などのオフタイムの収集も重要である。

3.完成数量
工程において完成し、次工程に送り出した良品の数を入力する。
複数日に渡って完成する場合は、当日の完成数のみを入力する。
完成数が指示数に満たない場合は不良数や歩留などを入力する場合もある。

ここまでの3つが基本的な日報の要素であるが、最近では品質管理の観点から、
以下の2つを補助的に入力する場合がある。

4.投入材料ロット
品質管理でロットのトレーサビリティを実施している場合は、
日報から投入した材料ロット番号を入力する。
ロットの統廃合などに対応できるように複数ロットが管理できるようにしておく事が重要である。

5.不良要因
工程において不良が発生した場合、数量を管理することは当然であるが、
定性的管理から、不良の要因や対処履歴などを管理することが増えている。
この場合には事前に不良要因を洗い出し、
要因と製造との因果関係が明確にできるような工夫が重要である。
上記の5つは基本的な実績収集(日報)の項目であるが、これ以外にも製造物や管理手法、
計画の精緻度などによって収集すべき項目は変わってくることは当然である。
しかし前述したように、実績収集とはあくまでも間接的作業であるので、
過剰に手間が掛かるような仕組みにすれば、コストが効果を上回る事になり、
「管理倒れ」となってします事は明白であるので留意願いたい。

また計画を消し込む場合には、そのタイミングが重要であり、
できるだけ作業と同期したリアルタイムに近いものが求められる。
特に計画の変更が多発する多品種少量生産においては、計画と実施は表裏一体であり、
計画の変更に敏捷性を持たせるためには、迅速な報告が必須である。
これからの製造業の現場では、ものを作るだけでは責任は果たせない。
工程は報告を以って完了と為すと言う考え方を徹底し、計画と実行を挟んで、
全員参加の生産管理を実現し、全社的にPDCAを回して行く必要があると考えるべきである。

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