真の提案とは、業務改善を通した効果を狙うべきもの


【緊急提言】生産管理システム導入に関しての考察 Part1

昨年、サブプライム問題に端を発した未曾有の景気悪化ではあったが、
最近は少し明るい話題も散見できるようになってきた。
鉱工業生産指数は上昇傾向にあり、国内の日銀や政府の景気短観も経済浮揚の傾向を示し、
海外の中国では既に景気回復が宣言され、アメリカでも景気底打ち宣言が出ている。
日本経済の場合、まだ不安定、不透明な状況であり、二番底の可能性も無いわけではないが、
過去の「失われた10年間」の経験を活かし、
早期に堅調な景気回復を遂げてもらいたいとの気持ちである。

この少しの景気浮揚感に合わせて、設備投資も少し上向き加減であり、特に情報化投資、
すなわち製造業における「生産管理システム導入」機運は高まりを見せているように感じる。
弊社でも、直近3ヶ月は生産管理システムの引合いが急増し、
全国で止まっていた生産管理プロジェクトの一部が、
活発に動き出したのではないかと言う手応えを感じている。

毎月4~5回、全国の生産管理に関する講演で「不況に打ち克つ生産管理」と言うテーマで
話をさせて頂いているのだが、来場者の視点も「いかに不況を脱するか」と言うものから、
「不況を脱した後に、いかに成長曲線を描くか、
またその為に必要な準備とはどのような事か」と言うものに変わりつつあるように思う。

このセミナーでは不況に打ち克つために「7つのポイント」を提唱させて頂いている。
(1)組織力の再強化
(2)全てにおける標準化の推進
(3)選択と集中の明確化
(4)ナレッジ・ファクトリーへの転換
(5)見える化の推進
(6)創造的IT活用
(7)競争戦略の明確化

である。

ここではひとつひとつの解説は行わないが
(ぜひ弊社のホームページを閲覧頂き、機会があればセミナーへのご来場をご検討頂きたい)、(6)の創造的IT活用について、少し紐解いて見たい。
「創造的IT投資」とは、「義務的IT投資」の対義語である。
ITガバナンスの現状を上位からⅠ・理想、Ⅱ・標準、Ⅲ・異常の3段階で考えてみる。
ⅢをⅡのレベルに引き上げるために必要なIT投資が「義務的IT投資」であり、
ⅡをⅠに引き上げるのが「創造的IT投資」であると考えてよい。
日本の製造業の場合、売上高に対するIT投資の割合は1~2%程度と言われているが、
その大半は義務的IT投資である。

それに比して欧米でのIT投資は、売上高比の7~8%と言われており、
日本に比べて創造的IT投資の比率が高いのが特長である。
日本では業務に対してIT投資を行うが、欧米では製品に対してIT投資が行われる。
つまり日本では工程管理システム、原価管理システム、
品質管理システムなどの業務システムへの投資(業務軸)が中心であるが、
欧米では新製品が開発される場合、その開発プロジェクト管理や新製品の告知、
専用ECなどへ投資(製品軸)される割合が高いとされている。
この場合、新製品が市場で当たるか当たらないかは事前に確約できないので、
投資と言うよりも投機的側面があることも否定できない。

しかし総論で言えば、日本はIT投資に対して保守的なのである。
筆者にはその是非を断ずる事はできないが、当面はこの流れは続くものと考えられるだろう。
しかし保守的な投資であったとしても、異常を標準に引き上げるための最低の効果創出を行えないシステムはIT不良資産である。

自社内にIT不良資産を持たないためには、
そのシステム導入の方向性やプロセスを再考する必要がある。
最近でこそ、ベンダーに丸投げのシステム導入は減り、RFPを作成して、
正規の競合を行わせて、より良いシステム導入を行う場合が増えてきた。
しかしそのRFPの内容は残念ながら稚拙なものが多く、目的(創出すべき効果)と
手段(システムのアプローチ)の区別がつかないものが多いように思われる。
ここでは話を生産管理システムに限定し、
ベンダーの提案との向き合い方における留意点を列挙してみたい。

1.IT導入効果は、業務改善の手段であり目的になりえない。
最近のITベンダーの提案書を見ると、導入効果として
「業務の見える化」「データ資産の一元管理」「BIによるデータ資産の活用」などを
あげている場合が多い。
これが間違っているとは断言できないが、少なくとも見える化やデータの一元管理、
再活用は、業務改善の手段であって、目的ではない。
見える化を具体例にとって説明すると、
本来の「見える化」とは「可視化+自律的改善」のセットのことであり、PDCAのサイクルを回し、
業務において改善効果を創出させるべき仕組みである。
ITでは「見える化=可視化(PD)」であり、重要な自律的改善(CA)の提案が忘れられている。
見える化とはITを利用して、在庫・工程・原価・計画・負荷などを可視化するのだが、
本当の勝負は見えた後にある。
もっと平明に言えば、見えただけでは何も変わらないので、
可視化だけでは傾向を察知できても、具体的な改善効果には繋がらない。
可視化を利用して「在庫を減らし、原価を低減し、品質を向上させ、
納期を短縮する」のが本当の目的である。
しかしITベンダーの大半は、「可視化の先」(=自律的改善)が分からない(そうした概念は持ち合わせていない)ので、可視化を最終の効果(目的)として提案する。
本当の効果とは見えた後の対策にあるのだが、ITベンダーには分からない。
そしてITの分からないユーザは、何となくITベンダーの提案を受け入れてしまう。
こうしたITよりに偏った提案は、
ソリューションと言う概念とは程遠いところにあるものであると認識しなければならない。
真の提案とは、業務改善を通した効果を狙うべきものである。

2.1年以上のスケジュールは範囲に問題あり。
昨今の経営を取り巻く環境の変化は著しく速度を増している。
これは製品のプロダクト・ライフサイクルの短縮を指し、
同様に生産管理システムのライフサイクルの短縮を表している。
筆者は中堅・中小製造業において、システム開発期間が1年を超えるものには、
原則として、計画の見直しをお願いしている。
現在抱えているシステムが解決すべき経営課題も1年単位で変わって行く現在で、
システム構築に2年も3年も掛かっているのでは、
出来上がった瞬間から仕様の陳腐化は免れない。
こうした場合は解決すべき課題(システムの範囲)をABC分析し、
喫緊の効果が高い範囲から1年分だけを抽出して、再計画を行って頂いている。
開発期間が長いほど、それに伴うリスクは肥大し、ユーザ側の投入工数を増大させる原因となる。
せっかくのシステム導入であるから、いろいろな事を盛り込みたいのは理解できるが、
システムの範囲を徒に大きくすれば、ユーザ側の負担も増大し、
ある時点で費用対効果と言う損益分岐点が手の届かぬ上方に転ずることになる。
俗に言う「管理倒れ」と言う現象である。

まずは1年で一番大きな課題を解決し、
次年度以降にシステム化計画をローリングさせるべきである。

~生産管理システム導入に関しての考察 Part2へ続く~

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