研修計画は導入計画よりも重い
【緊急提言】生産管理システム導入についての考察 Part2
最近はシステム提案の段階で、ベンダーを決定する条件の1つとして、
当該パッケージが導入されているユーザの見学を求められる事が多い。
筆者も生産管理システムの商談の中では、毎年、何度か求められる事である。
しかしその時のユーザ側の担当者から発せられる
「うちよりも企業規模の大きなところに導入されている例を見たい」と言う言葉には、
いつも疑問を感じざるを得ない。
もちろんユーザ担当者はこれから益々自社が成長し、相応の規模に達した場合を想定して、
自社よりも規模の大きなユーザで稼動している実証が欲しいのだろうと思う。
だが良く考えてみて欲しい。
自社よりも数段大きな企業は、自社に無い前提条件をたくさん兼ね備えている。
豊富な人的資源、システム運用・開発専任の情報システム部、潤沢なシステム投資、
完成された分業制、強固な内部統制など、例を挙げれば切りが無い。
すなわち求める見学先には、自社に無いもの持ってシステムを稼動させているのである。
言い換えれば、自社よりもはるかに多くの人・もの・金を投じて
システム構築や運用を行っているのであり、それを持たないユーザが見学をしたところで、
刺激にはなっても、教訓にはならないと言える。
であるので筆者は、
「ユーザ見学に行くのであれば、同じ目的を、より小規模の体制で実現しているところに教えを請うべきである」
と申し上げるようにしている。
自社よりもシステム導入や運用に投下できるリソースが少ないところが、
自社の目的としている事を実現しているならば、そこには「自社でも実現できる確証」があり、
「その為のノウハウ」があるはずであり、そうした確証やノウハウを得る事こそが、
真のユーザ見学であり、それをサポートしているSIベンダーの能力を評価できるポイントなのである。
より大きなユーザへの見学は、まずは自社のシステム構築をベースラインまで完成させ、
それを次のステップに発展させる時にこそ活用すべきである。
大手製造業への導入実績をちらつかせ、
目の前のユーザに目くらましばかりを行うSIベンダーには、
真のソリューションを提供するノウハウは無いと断言してもよいであろう。
またユーザ担当者もつまらない見栄を張っては全く形式化した
ユーザ見学となってしまうことに留意すべきである。
4.導入計画よりも、研修計画を重視する。
どんなに高価で素晴しい車を購入しても、縦列駐車ができない、
地図が読めない、交通ルールが守れないドライバーには高級車は無用の長物である。
場合によっては凶器となり、社会に大きな害をもたらせる場合もある。
残念ながらシステムも同様である。
世間にはIT不良資産と言ってよいシステムが数多く存在するが、
それらの導入失敗の原因を突き詰めると、「人」に突き当たる場合が大半である。
以前にも書いたが、所詮ITは経営計画を実現するためのツール(道具)であり、
計画を達成するのは「人」なのである。
どんなに高機能な先進の技術を導入しても、判断を下すのは人であり、システムではありえない。
システムは脇役であり、主役はあくまでも人なのである。
しかしこの簡単でありながら重要な前提条件は、なかなかクリアされない場合が多い。
組織を成長させることは、組織に属する人を成長させることが不可避である事が忘れられたシステム構築が多すぎる。
車の例を思い出して頂きたい。要は「人」なのである。
生産管理システム導入においても、SIERが提示する計画の大半は、
導入スケジュール(導入計画)であり、
システムを利用する人の研修計画に踏み込んで提案を行うケースは稀である。
しかし良く考えて欲しい。
システムは使いこなす側の力量が成否の鍵を握っている。
低レベルな運用担当者の下では、低レベルな運用しか実現しない。
いつまで経っても所期の高邁な目的が達成される事はない。
故に生産管理システムの導入を検討されるであれば、導入
計画と合わせて、人員の育成計画(研修)をしっかりと吟味して頂きたいと思う。
システム導入はいろいろな変化の動機になる。
組織や企業の定量的変化の動機になる場合もあれば、
定性的変化の主たる要因になる場合もある。
つまりシステムは人の変化(成長)を助長する事も、
より革新的な現場作りを推し進めることも可能なのである。
高レベルの組織は、目的意識を強く持った運用で、
自らを成長させながら、システムをも成長させて行く。
そしてより高度なシステム運用が、より高いレベルへと組織を押し上げる。
この「正の連鎖」こそが、システム導入の目的のひとつであると考えてよい。
もちろん導入スケジュールがひとつの大きなキーワードであることは間違いではないが、
ここは高度なシステム運用に耐えうる人材の育成計画に注目して頂きたい。
システムの構築に合わせて、それに携わる人の成長の姿がイメージできているだろうか。
これは非常に重要な事である。
生産管理システム」を効果的に運用するために、
システムを道具として駆使する「生産管理」の知識が必要である。
生産管理の知識とは、生産計画立案のノウハウ、工程管理、資材管理、在庫管理、原価計算などはもちろん、コストダウンや在庫削減、リードタイム短縮についての具体的なノウハウである。
システムは現状をシステム化するのでない。
現状をBPRした数年後の姿をシステム化するのである。
その数年後の姿を想像するためには、現状の適切な理解と前述したようなノウハウが必要であり、
それを保持していないのであれば、学ばなければならない。
ぜひ提案する側のベンダーも良く考えて頂きたい。
生産管理システム構築の成否の要諦は、ユーザにおける人の育成であり、
迂遠なアプローチに見えるが、実はユーザの中に高いレベルの運用者を作ることが、
最終的には一番高い確率でシステムが成功し、ベンダーとしてのリスクは解消されるのである。
システム導入の成功の原理はここにある。研修計画は導入計画よりも重いのである。
~生産管理システム導入に関しての考察 Part3へ続く~