見える化は「可視化+自律的改善」のセットであること


見える化について考える Part1

最近の経営に関するキーワードはいくつかあるが、今回は「見える化」について考えてみたい。
「経営の見える化」をはじめとして、
「営業の見える化」「生産の見える化」「原価の見える化」「現場の見える化」などと言う様に、
多面的な切り口からの見える化がコンセプトとして取り上げられている。
ここで見える化についての変遷を簡単に整理してみたい。
見える化の原形は、1980年代によく取り上げられた
「目で見る管理」であると考えるのが順当であろう。

目で見る管理とは「管理の対象物を誰が見ても、一瞬に正常な状態か、
異常な状態かを正しく判断して、異常の処置方法が明確に成っている管理」と定義できる。
5S3定などを中心とした管理の対象物が、自らの異常を現場に知らしめ、
素早く対処を行わせるための仕組みである。
目で見る管理の進め方は以下の通りである。
1.管理対象の設定
2.可視化
3.正常・異常の範囲の設定(正常値の基準化)
4.異常への対処の標準化
5.イメージ化・色彩化
6.マンガ化・アニメーション化
7.作業位置、目線の高さの近接化、集約化
8.音響の利用
9.目で見る管理の維持、保守

また目で見る管理のポイントは
1.誰が見ても異常と正常を識別できる事。
2.正常・異常を意識せず瞬時に識別できる事。
3.識別した結果を正しく判断し対処できる事。
である。

まさに体感的に異常を察知する仕組みであり、
前述の5S3定の徹底であると言え、現場において大きな結果を出してきた改善手法である。

1990年代に入ると、目で見る管理に代わって「可視化」が重要視されるようになってきた。
「可視化」とは元来、学術用語であり、流体力学や医療現場(レントゲン、CT、MRIなど)で利用されていた用語である。

上記の発展形として、企業の経営状況を定量的に把握し、時系列や分布(ポートフォリオ)で表現し、経営計画の目標設定や経営状況の改善に利用したのが、経営で言う「可視化」である。
これはITの進化によって実現できるようになった。
それまでは企業に蓄積された膨大な経営データを、サマリーしたり、グラフ化したり、
傾向分析を行うには膨大な人手と時間が必要であったが、IT技術の進化により、
より多くのデータが管理され、分析することの高速化が容易になった。
それまでの単なる数字の羅列であったデータを多面的に解析し、
様々な経営指標によって、管理会計情報を抽出する試みであったが、
特にネットーワークの発展とコンピュータ処理速度の大幅向上により、
リアルタイムでの可視化が求められるようになり、
その成功例のひとつが「デンセイ・ラムダの経営コックピット」である。

国際会計基準やそれに続くERP導入ブームが「可視化」の構築に拍車を掛け、
経営者は経営に科学性を求められるようになった。

そして2000年を越えてから言われるようになった「見える化」である。
見える化は当初、VM(Visual Management)活動の進化形として考えられていた。
その揺籃期おいては、業務分析や数値化、指標化をもって「見える化」と呼んでいた時もあり、
可視化の延長線上に現れたコンセプトで、
シックスシグマ、QC、BPRなどと同類のものと考えても良いだろう。
VM活動も5Sをその根幹に据えるので、「見える化」と共通する部分も多いが、抜本的に異なるのは、
1.目で見る管理は製造部門を対処とするのに対し、見える化は間接部門を含んだ全部門を対象とすること。
2.目で見る管理はPCCAの中でも「P・D」が中心であるのに対して、見える化は「PD+CA」で「可視化+自律的改善」のセットであること。

などをあげることができる。
主な対比事項については上記の表を参考にして頂きたい。
全部門を対象とし、自律的改善を繰り返す「見える化」が経営改革に貢献する度合いが大きい事は自明の理であり、見える化が注目されるようになってきた背景はここにある。

 ここで今後の話の展開の為に「見える化」の定義を明確にしておこう。
「見える化」の定義とは以下の通りである。
1.当該事象を見るようにするための目的が明確であり、見えた結果が関係者のアクションに結びつく事。
2.対象となる事象のさまざまな事実や異常・問題点および揚げた目標に対するギャップについて、関係者が見る(情報を取りに行く)のではなく、タイムリーに見える(目に飛び込んでくる)状態や仕組みが構築されている事。
3.見える対象になっている事象や見える化の指標類について、関係者が自律的・継続的に設定・評価(認識し判断する)・改善できる仕組みが構築され、機能していること。

次回以降は「見える化の枠組み」や「見える化実践のポイント」などについて、訴求してゆくこととする。

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