マネジメントへの信頼が欠けた「見える化」で引き出せる効果は限定的である


「見える化」について考える Part3

今回は「見える化」に関して、もう少し実践的なポイントに踏み込んで解説してみたい。
「見える化」も経営改善の手段であるので、その実践についても基本的なセオリーがある。
この実践的なセオリーを理解、共有しておく事で、
より有効的な「見える化」導入を行う事ができるはずである。
まず、実践に向けた現状確認は以下の4点であると考えたい。

1.「見える化」の現状確認
見える化すべき対象については、
前回に解説したが、まずその対象の現状がどうなっているのかを分類する事が重要である。
下記の表を見て頂きたい。
この表は見える化における対象をポートフォリオするためのツールである。
縦軸に「行動力」の高低、横軸に「顕在化」の高低を設定し、「見える化」すべき対象(課題)をプロットする。



具体的分類の基準は以下の通りである。
Ⅰ:問題が意識的に顕在化され、問題解決活動が進められている状態。
Ⅱ:意識的に取り組むことで、これまで何が見えていて、
何が見えていなかったのかが明らかになる。それが見える化のきっかけにもなるが、
「見える化」そのものの「見える化」が必要。
Ⅲ:組織風土の革新が必要な課題。
Ⅳ:標準化の推進や的確な判断基準の設定などが課題。

Ⅰはまさに「見える化」が実践されている状態であり、筆者の経験から申し上げると、
この象限に属する課題は企業の課題全体の10%未満である。
企業とは北海に浮かぶ氷山のようなもので、海面上に見え、認識され、
改善が実施されているものより、
「見えていない」もしくは「改善のアクションが打たれていない」課題の方が圧倒的多い。

Ⅱは全体の20%程度であろう。
経験則と言われる暗黙のルールによってある程度、
合理的に運用されているように見えて、実際は具体的な定義の手段に欠ける課題である。
日本の製造業は、事業承継の課題を抱える企業が多いが、特に技術的継承については、
暗黙知とされるが故に継承が完璧に行われないものが多い。

Ⅳも全体の20%程度と考えてよい。
この象限は簡単に言えば「日頃の現場の不平や不満」である。
課題としての現場での共通認識はあるが、改善が進んでいないものであり、
PDCAのサイクルが回りきらないものと言える。
これらの未解決な状態が長期化・慢性化すると、
企業経営の根幹を揺るがしかねない問題になるものが多いので用心しなければならない。
現場の小集団活動やQCサークルでの早期対応が必要である。
Ⅲは企業の潜在的課題であり、50%以上を占めている。
課題として存在しているにも関らず「顕在化もせず、
改善の対処も行われていない」状態であり、大半は気付かれていない課題である。
「見える化」の実践においては、この象限に「気付きの光」を当てることにより、
ⅡないしⅢの象限への移動が重要である。
この象限にある課題は、悲観的に考えれば「未発見の課題」であるが、
楽観的に考えれば「今後の企業成長の潜在能力(可能性)」と考える事もできるだろう。
自己で気付くにくい部分であるので、社外的な第三者の視点を利用することによって、
光を当てる事ができることが多い。
弊社が生産管理システムの構築を行う場合、
これらの課題の発見と対策を新しい業務フローに加えて行くように強く意識している。

この表を作成する場合には、KJ法などにより、課題をカードとして書き出した上で、
分類して行くのが良いだろう。
時には同一の課題が違う部門によって、異なる象限に分類されるコンフリクトが起こる場合もあるが、
課題への共通認識の欠如はⅢの象限に分類するのが良い。
上記のような作業で、まずは自社の課題の見える化の現状を「見える化」する。

2.「見える化」の意義と理解の共有
改善を進める上で、その意義(目標とすべき効果)を定義し、
共通認識として理解しておく事は重要である。
前回の「見える化」のフレームワークでも説明したが、組織の階層や立場によって、
「見える化」すべきものが異なる。
と言う事は、組織の階層によって享受する効果も異なると言う前提を立てなければならない。
少なくともそれぞれの組織や階層の人がなんらかの「得」をするようなフィードバックがなければ、
「見える化」はスムーズに進まない。
見える化によってどのようなメリットを創出するのかをデザインするべきである。
改善とは「仮説検証の繰り返し」によって、PDCAのサイクルを回転させるのであるが、
見える化の役割の一つは「正しい基礎情報を提供する」ことである。
よい基礎情報が得られない限り正しい仮説検証ができないため、
結果として経営者からも管理者からも個々の従業員からも信頼が得られない仕組みとなる悪循環を生じることを理解しておかなければならない。

3.問題が見えていることを評価する組織風土
見える化を推進する中で、絶対的な禁句がある。
問題を抽出プロセスで「それが問題だと言うのであれば、
同時に解決策も提示せよ。」と言う発言である。
これを言うと「解決策を思いつかない課題は言えない」と言う事になり、
また潜在的な象限へ回帰してしまうことになる。
問題が見えているだけではダメで具体的な解決策を合わせて提示しないと評価されない組織では、
解決策が見通せている問題しか顕在化しないと考えるべきで、
解決策がなくても「よく問題を発見した。さあ全員で解決策を検討しよう。」と言うような自由で積極的な組織風土が「見える化」を強く推進して行くのである。
問題を矮小化したり先送りしたりしないためには、
解決策の見通し如何に関わらず問題が見えていること自体を評価する風土が欠かせない。

4.マネジメントへの信頼感
前回に書いたが、『誰に「見える化」するか』は
(1)経営層、(2)マネージャー、(3)現場担当者である。
(1)は見える化の「ストラテジー(戦略)」
(2)は「マネジメント(管理)」
(3)は「オペレーション(実践)」を主担当とする。
この中で特に重要な役割を果たすのが(2)のマネージャーである。
経営層や現場スタッフはマネジメントの言動を注意深く観察している。
マネジメントへの信頼が欠けた「見える化」で引き出せる効果は限定的である。
故にマネジメントが信頼を得る「見える化」とは
どのようなものであるかを熟慮した上で実践しなければならない。
次回は現状確認を踏まえた実践のポイントについて言及する。

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