「可視化+自律的改善」で1セット


「見える化」について考える Part4

前回は「見える化」の実践に向けた現状確認について説明した。
「見える化」とは企業全体の改革であり、
抜本的には組織風土の改革から着手しなければならない事もあることはご理解頂けただろうか。

ある企業では、経営者が率先垂範で見える化に取り組んだ。
工程負荷、品質管理情報、個別原価など、
数ヵ月後には会社の掲示板や社内回覧板のために
数え切れないほど多くの表やグラフが作成された。
経営者が中心となり、全社一丸となって見える化に取り組んだ「結果」である。
ここではあえて「成果」とは書かずに「結果」と書いたのには訳がある。
この会社「見える化」に取り組んだのだが、結果は「見えなく」なった。
確かに数多くの見える化のアウトプット出たが、情報過多で逆に見えなくなったのである。
上記から理解できるように「見える化」は何でもかんでも見えれば良いというものではない。

まずは傾向や流れ、課題の在り処が見えることが重要であり、形式や手続きにこだわると、
情報量が肥大して、見るべきものが埋没してしまうのである。
今回は現状確認を踏まえた「見える化」の実践ポイントについて言及したい。

1.現場が作るモノサシ
見える化は「自立」し、「自律」していなければならない。
その為には誰かに管理運用されているのではなく、
自らの手で管理して行くという姿勢が重要である。

見える化は改善の進化形であり、競合力の源泉であるという事を再認識したい。
この見える化が競合力であるという認識を共有していない状態では、
見える化によって抽出されたアウトプット(指標や現象の分析など)に対する解釈が、
組織によってバラついたり、温度差が現れる事になり、
最終的には効果的なアプローチが実践されない要因となっている場合が多い。
「在庫が1.5ヶ月」と見えても、それが多いのか少ないという見解に組織でのバラツキが出るようでは効果的な改善活動を行う事ができないということだ。
故に見える化の効果を引き出すためには、
そのアウトプットを共通の認識として評価する現場のモノサシが必須である。
しかしこのモノサシは全社共通の仕様であり、現場の独善を許すものであってはならない。

アウトプットにモノサシを当てるのであれば、
結果は現場、マネージャー、経営層などの全てのレベルで共有されるべきであることも重要である。
見える化がなかなか上手く進まないケースはこのモノサシが不在の場合が多い。
見える化に取り組む場合にはまず評価基準というモノサシを持つことが必要だ。

2.手段として必要十分な見える化
見える化をより組織に適合させるためには、組織の現状を踏まえ、
手段として「必要十分」な見える化を心掛けるべきである。
あまりの情報過多に陥るような見える化では、
かえって組織の機動力や行動力を阻害する場合があり、必ずしも詳細すぎる見える化ではなく、
組織が改善に向けて動き出すことができる大まかな見える化で十分である場合がある。
組織や現場にイノベーションを起こす場合に「十分条件」が満たされる事を待っていれば、
起動が遅れ、タイミングを逸してしまう場合が多い。
見える化と言うイノベーションも、
組織が動けるだけの「必要条件」が満たされれば強い始動を行うべきである。
前述したが見えるかは「PDCA」の繰り返しであり、本当の勝負は状況や課題が見えた後にある。

すなわち課題に対してアクションを起こすことが必須なのであるが、動く焦点がずれる場合がある。
PDCAのサイクル、すなわち「見える」⇒「動いてみる」⇒「成果を検証する」⇒「改善する」のプロセスでボトルネックとなりやすいのは「動いてみる」のステップであることを認識して頂きたい。
動くためには現状に疑問をもち勇気が必要である。
変化するためには、現状に満足せず、行動する勇気が無ければならない。
見える化では、動くために組織としての行動の勇気を発揮する。
行動を起こしてこそ見える化のための必要十分条件が満たされるのある。

3.見える化の「見せ方」に注意
見える化には「マクロな見える化」と「ミクロな見える化」の2種類が存在すると考えたい。

通常「見える化」と言われるものは、対社内のものであり、
「原価の見える化」「進捗の見える化」「在庫の見える化」「営業プロセスの見える化」などがあるが、
これは「ミクロな見える化」である。
この「ミクロの見える化」の結果を同業種市場全体のポートフォリオにプロットすることが、
「マクロな見える化」である。

これは「在庫」「原価」「利益」などの指標を業界全体における相対位置を明確にし、
自社の強みや弱み、課題、競合戦略の方向性などを見える化することに目的がある。
言い換えれば、「マクロな見える化」とは、どのような側面から自社の「見える化」を進めれば、自社の市場におけるポジションを把握できるかと言う観点を持つ事が重要だということである。
また合わせて「個人レベルの見える化」を行い、
自分の業界における価値(値段)が分かるような見せ方が可能になれば、
フィードバックの意義も明確になる。組織は個人の集団であるから、
個人が組織内における自分の見える化を行えば、
自己を改革すべき方向やモチベーションなどを見出す事が可能になり、
最終的には組織の目指す方向性に自己能力を最大限に発揮することが可能となる。
見える化についての実践のポイントはまだ他にもあるが、
今回は重要と思われる3つについて書いてみた。

弊社では「見える化」についての実践的セミナーを定期的に開催しているので、
また弊社のホームページをご参照願いたい。
繰り返しになるが、見える化は改善のための手法であり、
見える化自体が目的に座る事はありえないし、あってはいけない事である。
「可視化+自律的改善」で1セットであるので、決して可視化で満足してはならない。
PDCAの中でもCAに注力することが重要であることを再認識して頂ければ幸甚である。

次回は見える化が抱える「今後の課題」について触れてみたい。

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