環境変化の激しい企業経営にとって、敏捷性のあるPDCAは必須


「見える化」について考える Part5

これまでは「見える化」についてのフレームワークと実践ポイントについて解説を行ってきた。
今後の企業経営に見える化は必要不可欠なものであり、
その有効的な実践ツールとしてのITのあり方などについてもご理解頂けたものと思う。
しかし「見える化」は現状の課題を全て即時に解決する「魔法の箱」ではなく、
一つひとつの改善の積み重ねであり、
見えた結果を経営や改善に活かす感性が必要である事は間違いがない。
仕組みの導入と合わせて、経営幹部、管理職、現場担当者が見える化を活かす感性を養う教育の仕組みを構築する事が必要となることを意識したい。
今回はこれまでに述べてきた「見える化」の今後の課題について推察を進めて行く。

1.時間的制約と過去のモデル化
前述したように見える化とはPDCAのマネジメント・サイクルを回す事、
すなわち「可視化(PD)」+「自律的改善(CA)」の1セットである。
これはPDCAを一回りさせない限り、見える化の効果は確認できないという事であり、
言い換えれば見える化の効果は時系列で見ることによってのみ検証できるのである。
このPDCAの一回りの期間を一概に定義する事は困難だが、
一般的には数ヶ月から1年間(1会計年度)程度とみるのが妥当であろう。
故に見える化の実現には相応の時間が掛かるという事を組織全体が十分に理解した上で、
将来に向けた中期的経営改善の一端として考えて行かねばならないのである。

しかし昨今の企業を取り巻く環境は急激な速度で変化しており、
我々の経営環境は見える化の効果が十分に顕在化するまでの時間的な猶予(助走期間)を許してはくれないのも現実である。

いくら効果のある改善でも、ある程度、
早期に効果創出を出来なければ継続や追加投資が困難であると言える。
見える化の課題はここにある。
今日から見える化に取り組んでもデータの蓄積・分析・アウトプット作成・現場への定着など一連のルーティンに時間が掛かり、実効性のる成果が出るのが1年後であったりする場合が多い。
これでは改善自体が時宜を逸して陳腐化してしまう場合がある。
この時間的制約を解決するには2つのアプローチがある。
1つは「IT(生産管理システム)の構築」である。

徹底したITの活用により、データ収集、分析、出力の一連のルーティンのスピードアップを図り、
データベースへのデータの格納は、多面的なインデックス(索引)での複合的な層別を実現する。
生データをデータベースに格納すれば、
JOIN・MERGE・PROJECTIONはリレーショナル・データベースの基本機能であるので、
分類や組み合わせが自由である。
この分類を効果的に行うために、現場の視点(現場の感性)が重要で、
従来の紋切り型で在り来たりの層別では見える化の企業独自性を表現する事は出来ない。
故にシステムの導入と並行して、ITを前提とした要員や感性の育成が重要になってくる。
2つ目は「過去の状況をモデル化して現在の『見える化』を行う」手法の導入である。
見える化におけるデータの解析は時系列的なものが基本であるから、
現在のデータの解析の成果は未来に委ねられる。

裏を返せば過去のデータを解析し、有効なモデル化と仮説ができれば、
過去の姿見としての「見える化」が可能になり、
現状を「見える化」することの意義が検証できるということである。
企業には過去データが豊富に存在するので、
これらのデータから過去から現在に向けてPDCAを反証し、
現在の課題及び対応策を導き出す事は理論的に可能であろう。
またこの手法であれば、早期に現在の見える化を実現することができる。
特に現在「生産管理システム」を導入し、
稼動させているユーザでは既に生データは揃っているので、
これを多面的に解析できるBIツールなどを導入すれば、
間違いなく現在の見える化は実現できるはずである。

2.「見える化」しても見えないものの認識と重要性
見える化は「可視化+自律的改善」であることは前述した。
可視化と言うのはミクロな意味での見える化であり、
基本的には数値化(金銭換算)出来るものを中心に実施される。
しかし企業はそうした有形資産のみで形成されているわけではなく、
BS(貸借対照表)に記載されることのない無形資産がたくさんあるものである。
これらの無形資産は企業のコア・コンピタンスになっている場合が多いが、
なかなか数値的には表現されにくいものである。
そうした前提の中で、「見える化」の効果を最大化するためには、
「見える化」を進めることによって浮かび上がる『見えない』あるいは『見えにくい』部分を明らかにし、
認識する必要がある。
見えるものがあると言う事は、見えないものや見えにくいものが存在することを忘れてはならない。
この見えない部分とは多くの場合、
「企業風土、社員の意識・経験・競合に打ち勝つ技術・ブランド・生産性」と言うような要素によるものである。
例えばどれほど品質管理の徹底を目指しても、品質を軽んじる現場風土がある場合には、
品質管理強化に限界があるし、厳しいコストダウン目標を掲げても、経験則に頼り、
科学的な改善を導入しない現場であれば、その効果は知れている。
見えてくるもの同じだけ見えないものが存在し、
その見えない(見えにくい)部分を再発見することも見える化そのものであると考えたい。
そうした認識が深みのある見える化を実現するものであると信じている。
見える化は有効な経営改善手法であることは間違いない。
最近では「営業の見える化」「設計の見える化」「保守サービスの見える化」など全ての企業業務プロセスの見える化が唱えられている。

製造の見える化や利益の見える化などと合わせて、業務プロセス全体からムダや不合理を排除し、
よりリーン(筋肉質で弾力のある)で、柔軟な組織作りを、
企業のリソース全般から俯瞰する動きが顕著である。
これを「一気通貫の見える化」などと呼ぶ場合もある。
環境変化の激しい企業経営にとって、敏捷性のあるPDCAは必須であり、
そのために「見える化」は今後益々その重要性は高まるであろう。
不況の出口戦略としての見える化は、
今後、企業の成長曲線の傾きに大きな影響を与える事は間違いがない。
故にここで正しい見える化を実現できるかできないかが、企業競合力の大きな格差に繋がるので、
腹を据えた取り組みの重要性に気付いて頂きたい。
見える化についての考察は一応、今回をもって終了とさせて頂きたい。

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