今後のベストシナリオは勤労意欲を活かしつつ、生産性を引き上げること


「出口戦略」としての生産管理(1)

気温の上昇とともに、景気回復を示唆するような記事や報道が多数見受けられるようになってきた。
一昨年からのサブプライム問題(リーマンショック)に端を発する世界同時不況も、
その出口の鮮明化が為されてきたと言えるのではないだろうか。
経済回復を具体的示す記事をいくつか列挙してみるのでご一読頂きたい。

【10年上期の経常黒字47%増 輸出と貿易黒字が過去最大伸び率】
(2010年8月9日9時16分配信 産経新聞)
財務省が8月9日発表した2010年上期(1~6月)の国際収支速報によると、
海外とのモノやサービス、投資などの取引状況を示す経常収支の黒字額は前年同期比47.3%増の8兆5262億円と大幅に増えた。

輸出の回復で貿易黒字が急拡大したため。輸出と貿易黒字の増加率は過去最大を記録した。
上期に経常黒字が増加するのは3年ぶり。

ただ、リーマン・ショック前の08年上期(約10兆4千億円)までは回復しなかった。
貿易収支の黒字は前年同月比6.3倍増の3兆2624億円。輸出は39.6%増の31兆3864億円、
輸入は25.1%増の5兆4901億円だった。
前年同期は金融危機による世界同時不況で輸出が急減していた反動に加え、
好調な新興国向けが原動力となった。

【7月倒産、25%減で12カ月連続減少 不況型は84%の高水準】
(2010年8月9日14時0分配信 産経新聞)
東京商工リサーチが9日発表した7月の企業倒産件数(負債1000万円以上)は、
前年同月比23.0%減の1066件となり、12カ月連続で前年を下回った。

負債総額は、25.7%減の2753億3300万円で、6カ月連続で減少した。
政府による信用保証や支払い猶予などの資金繰り支援策の効果で減少傾向が続いている。
業種別の件数は、全10業種のうち農・林・漁・鉱業を除く9業種で減少。
規模別では、負債総額1億円以下の小規模企業の倒産が、66.3%を占めた。
原因別では、「不況型」が84.2%と過去2番目の高い割合だった。
地域別でも全9地域のうち横ばいの北海道を除く8地域で前年を下回った。

【GDP2.6%増に上方修正 政府、10年度見直し】
(2010年6月21日8時52分配信 KYODO NEWS)
政府は21日、物価変動の影響を除いた実質国内総生産(GDP)の2010年度の成長率見通しを、昨年末に公表した1.4%から2.6%に上方修正する方針を固めた。

3年ぶりのプラス成長で、2%台は06年度(2.3%)以来4年ぶりとなる。
22日に閣議決定する予定の財政健全化策に合わせ、内閣府の試算として発表する。

【日銀短観:6月DI 大企業・製造業が大幅に改善しプラスに】
日銀が1日に発表した6月の企業短期経済観測調査(短観)によると、
企業の景況感を示す業績判断指数(DI)は大企業・製造業がプラス1と、
3月の前回調査(マイナス14)から15ポイント上昇、5期連続で改善した。
大企業・製造業のDIがプラスになるのは、リーマン・ショック前の08年6月以来、8期ぶり。
大企業・非製造業のDIもプラス9ポイント上昇のマイナス5と5期連続で改善した。

上記の報道から分かるように、よほど大きな経済的失策が無い限り、
今後の不況二番底は回避され、日本経済の復調傾向は確かなように思われる。
特に中国、インドなどを中心とする日本と同じアジア新興国の経済成長は著しく、
GDPにおいては、40年来、日本が守り続けてきた世界第二位の座は、
今年中に中国に明け渡されることも確実であり、
日本は今後、これらのアジア新興国と域内貿易を拡張し、
共栄を図る手立てを考えてゆかねばならない状況にあるだろう。

これまでの経済格差は、その国の産業革命(産業技術・構造改革)の進行度にあったと言える。
18世紀のイギリスで起こった産業革命は、ヨーロッパ、アメリカ、
そして明治維新として日本に伝播された。
当然、このイノベーションへの取り組みの度合いが国力(国際競合力)を定義し、
世界の経済的主導権はイギリス、アメリカ、「ジャパン・アズ・№1」と言われた日本などが共有した。

しかしグローバル化が進んだ現在では、世界のどの国も産業革命を達成しており、
それは先進国独自の取り組みでは無くなってきている。
すなわち国際競合力は、産業革命以前の原始的なものに回帰していると言えるだろう。
現在、国の競合力は「技術力」ではなく、再び「人口」や「資源」と言うその国に内在する潜在的なポテンシャルに移行しつつあるのである。
日本は5年後にGDPでインドに追い抜かれ、20年後には世界で6位になってしまう。
これはまさに少子高齢化や資源希少という日本の国が辿らなければならない宿命なのであろう。

しかし日本には本当にポテンシャルが無いのであろうか?
今後は経済的な世界地位を徒に喪失するだけなのであろうか?
日本はこのまま消費大国として終わってしまうのだろうか?
筆者が考える答えは「NO」である。決して日本の現状に今後の成長余地が無いとは思わない。
日本にはまだまだ成長の可能性があるし、徒に未来を悲観する必要はない。

例えば「時間生産性」である。
日本は改善が進み、労働資質が高く、
ムダ・ムリ・ムラが排除された合理的企業経営が実践されているように思われている。

「カンバン」など究極のムダを排除した生産管理などがよく取り上げられ、
時間当たりの生産性も抜きん出ているように考えられているが、実際に数字で評価すると、
それは正解ではない。
2008年の「一人1時間当たりの生産性水準」(下図参照)を見てみると
日本はアメリカの7割水準であり、キャッチアップは終わっていない。

「低生産性を高就業率でカバーし、諸外国並みの生活を維持してきた」
と言うのが日本経済の実態である。
最近のロイターと調査会社イプソスが有給休暇を使い切る労働者の割合を国別で調査した結果、
フランスが89%でトップ、日本が33%で最下位であることが分かった。
これからも分かるように、これまでの日本は
「とにかくがむしゃらに皆で働き、働き方の効率性は二の次の経済」だったと言える。

今後のベストシナリオは勤労意欲を活かしつつ、生産性を引き上げること。
少なくとも引き上げる余地は大いにある。
ここで重要視されるのが、「時間生産性の向上」であり、
「出口戦略」としてのマネジメントシステムである。
製造業で言えば、今後の成長性に大きな影響を与える「生産管理システム」だと言えるだろう。

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