まさに可能性の塊である中国


緊急レポート 中国東北部からの現地報告

一昨日、1週間の中国出張から帰国したばかりである。
前回のコラムにも書かせて頂いたが、
今後10年の世界経済は中国を中心としたアジア新興国が牽引してゆく事は間違いない。
今回の出張は、中国の大都市部である上海、北京、大連、青島、天津などを外して、
今後の大きな成長が期待される中国東北部に行った。
具体的には長春(吉林省)を中心に、行政、企業、学校などを回ったが、やはり感じるのは、
今の中国が驚異的な上げ潮状態であると言う事である。

中国東北部であっても、街には人やモノが溢れ、建設ラッシュ、商取引にもしなやかな弾力を感じる。GDPが日本を抜いて世界で第2位になった事にも、全く満足せず、貪欲に成長して行こうとする熱い取り組みが感じられる。
国全体がしなやかなゴムのような感じであり、経済も多様性に富んでいるように見えた。
吉林省は一大穀倉地域であり、特にトウモロコシの生産は全中国の17%を占めている。
これまでは輸出が中心であったようだが、国内の産業発達に伴い、
国内需要が大幅に増加した結果、いまでは輸出自体が禁止されているそうである。
トウモロコシは、次世代燃料と言われる「バイオエタノール」の原料であり、
この豊かな穀倉地帯は、世界環境改善の為の大きな立ち位置を確保する可能性がある。
こうしたところにも中国の世界経済のキーマンとしての可能性が潜んでいる。

長春では弊社製品「Factory-ONE 電脳工場」を「東北アジア貿易・投資博覧会」に出展した。
この博覧会では中国、日本はもちろんのこと、タイ、韓国、北朝鮮、ロシアなどのメジャーな企業が立派なブースを出展しており、食品から重工業まで、これらの国の全ての産業が中国を今後の大きな市場として捉えている事が分かる。
中国政府もこうした国外資本誘致に積極的であるので、本博覧会にも気合が入っていた。
東京ビッグサイトの5倍はあろうかと言うような大きな展示場、オープニングセレモニーでは、
中国中央政府の主軸はもちろん、各国の要人も多数招聘されていた。
戦後の日本の経済成長は「東京オリンピック」「万国博覧会」で1つの大きな成果を表出させたと言えるが、現在の中国でも同じように北京オリンピックを開催し、上海万博を開催するなど、
まさに昭和40年前後の日本と同じ、いやその数倍の規模と速度で成長していることを実感した。

展示会では日本もトヨタを始め、名だたる企業の出展が見受けられた。
単なる最新技術のアピールだけでなく、その場で消費意欲を掻き立てるような展示構成になっているのが特徴で、今後の中国が日本にとって、単なる廉価な外注先ではなく、まさにマーケット(消費市場)と考える企業が増えている証左であろう。前述したが、弊社も小さいながら、
日本の生産管理システムをアピールすべくブースに看板やカタログ、資料の展示を行った。
日本のシステムが中国の経営の現場でどのように評価されているのか?
また生産管理システム事情はどうなっているのか?などの市場調査を兼ねての出展である。

「電脳工場」と言う奇妙な名前が目を引いたのか、「Factory-ONE」と言う名称が工場の興味を喚起したのかは定かではないが、用意した300セットの資料は、1日半でなくなってしまった。
具体的には大連や上海、ハルピンから来たと言う製造業からたくさんの質問を受けた。

筆者は中国語が話せないので、通訳を介しながら、
または相手が英語を話せる場合は英語で説明をするが、
日本で通用する生産管理用語は全く通じない。

例えば「量産」だから「MRP」が有効と説明しても、MRPを説明するのが一苦労である。
同じような考え方はもちろん中国にもあるのだと思うが、
少なくともMRPと言う言葉は全く通じなかった。
展示ブースはいつの間にか、簡易「生産管理講座」と化してしまったが、
中国人は熱心にメモを取り、繰り返し質問をしてくる。

「日本の生産管理システムを導入すれば、日本の企業と取引できるのか?」
「日本の品質は世界一と言われるが、中国の品質管理では何が欠けているのか?」
「日本企業は売上の何%を、情報化投資をするのか?」
「コストダウンの改善ポイントについて説明してくれ」
など延々と質問攻撃である。挙句の果てには、自己アピールが始まり
「自社は上海で一番優れた金型技術者を持っている。」
「政府にコネがあり、どこよりも有利に日本企業の誘致ができる」
など、要は日本企業と取引したい事を訴えてくるのだ。

こうした中には悪質な中国人ブローカーがいると聞いたが、
少なくとも今回の展示会場で話をした中国人に胡散臭そうな雰囲気は感じなかった。
筆者のお人よしもあるのかもしれないが、ものづくりを真剣に語る人たちには、
国境を越えて親和感を持ってしまう。

我々のブースには地元のテレビ局が取材にやってきて、簡単な商品説明を行った。
取材クルーに「なぜ?」と逆に質問したら、中国の日系企業、
特にトヨタなどの大手ではない企業をピックアップして取材していると言っていた。
我々のブースには地元のテレビ局が取材にやってきて、簡単な商品説明を行った。
取材クルーに「なぜ?」と逆に質問したら、中国の日系企業、
特にトヨタなどの大手ではない企業をピックアップして取材していると言っていた。
日系大手は取引開始のハードルが高く、
中国企業は日本のベンチャーで可能性のあるところを見つけて、
最初につばをつけてしまいたいらしい。
展示会は初日だけブースに立ち、翌日は「日中経済発展シンポジウム」にゲストとして招待して頂き、
夜は吉林省の省長(日本で言う知事)の王氏、副省長の陳氏から手厚いご饗応を頂いた。


吉林省だけで人口が2770万人なので、1つの国家規模である。
王氏も陳氏も「ぜひ吉林省に」と誘致に余念がない。
国内で地域経済格差があり、吉林省も他の省に負けないようにとの気持ちが伝わってくる。
中国全体の昨年のGDPの伸びは9%弱であるが、吉林省単独では17.6%であったそうだ。
日本では絶対に考えられない数字である。
まさに可能性の塊である中国には、無限の選択肢があるように見える。
しかし視点を変えれば、成長の陰に隠れた大きな陥穽の罠の匂いもあるのではないかと思う。

次回も引き続き中国レポートをお届けしたい。
中国人の大声と年中無休の車のクラクションには閉口した事を付け加えておく。

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