【連載開始】生産管理史 ~ものづくり改善手法の系譜~

 残暑お見舞い申し上げます。
 ここ数年は地球温暖化による気候変動の確実な到来を予想させる暑さが続いていましたが、皆様、如何お過ごしでしょうか。まだまだ熱中症に十分な対策をされた上でお過ごし下さい。

 さて志士奮迅はここ数回にわたって、株式会社NCコンサルティングの大橋社長に「製造業の人事」に関する寄稿を頂き、好評を博しました。読者の皆様からもたくさんのコメントを頂き、私自身も改めて、ものづくりにおける人事制度について学び直させて頂いたと感じています。この場を借りて、大橋社長には御礼を申し上げます。

 今回からは、また私が筆を執らせて頂き、新しい連載をスタートさせようと考えています。ここ半年ほどは、自分のライフワークである生産管理の系譜の研究を行っています。その集大成として7月に「経営工学、管理工学の過去から学ぶ生産管理史【古典・近代編】~産業革命からDXまでの改善の系譜を辿る~」という講演を行いました。オンラインセミナー当日の通信環境設定に手違いがあり、聴講者の皆様にはご迷惑をお掛けした苦い想いもありましたが、久々に力を入れて登壇させて頂きました。90分のセミナーだったのだが、当初に書いた資料は200頁以上あり、とても時間内で話すこともできず、何回かの社内リハーサルや資料の改稿、削減、日程変更などを経て、漸く7月に登壇の運びとなりました。元々90分では全部話しきれず、いずれはこの志士奮迅に連載で書きたいと考えていたので、それを今回から始めたいと思っています。

 今回の連載は、産業革命~DXまでのものづくりに関連する管理工学や経営工学、情報システム工学などのトピックを解説し、その系譜を明確にするのが目的です。これまでにありそうであまりなかった分野なので、しっかりと下調べを行い、連載に取り組みました。長い連載になるので、途中には季節のコラムなども挟みながら、自分も楽しめる連載にしたいと考えており、皆様には最後までお付き合いをお願いしたいと思います。それでは前置きはこの辺りにして、早速、連載を開始します。


【第1回】生産管理の歴史を学ぶ意義

 生産管理とは製造業において、基幹的に大きな役割を担う仕事である。顧客に対して品質や納期を担保しつつ、経営に直結する収益や見積り、在庫などのコントロールを行う役割を担っている。

 情報システムについても、生産管理システムは製造業の基幹システムであり、DX時代の現在では生産管理システムを中心に様々なシステムやサービスとの連携を行うプラットフォームとしての役割も求められている。

 今回は生産管理を改善の観点から俯瞰し、時代に応じた経営工学や管理工学の変遷を「史」としてまとめることが目的である。「史」は(中+又)の会意文字であり、「神への祈りの言葉を書き、木の枝に結びつけた」象形と「右手」の象形から「祭事にたずさわる者・役人」を意味する「史」という漢字を成り立ちとしている。

(出典:漢字/漢和/語源事典 https://okjiten.jp/kanji613.html

 「史」には、いろいろな意味があるが、今回は「ふみ(歴史の書)」(例:正史)」として考え、生産管理の歴史の書としての意味合いを持たせたい。

 さて、この連載の書き始めは産業革命と決めていた。DX全盛の時代に、産業革命の話が役に立つのだろうかという疑問が生じるところだが、温故知新という言葉もあるように、古きを尋ね求め(=温)て、そこから新しい知識・見解を導くことはいつの時代においても重要なことである。

 この志士奮迅でも何度が紹介してきたが、私が好きな言葉にプロイセンやドイツ帝国の宰相のオットー・フォン・ビスマルクの「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」という言葉がある。生産管理においても平素の経験則だけから学ぶのではなく、歴史から普遍の本質を知ることも重要だと思う。

 特に最近は技術革新のサイクルが早く、新しい1つの開発や発見、革新が、次の革新を引き寄せ、指数関数的な変化が起こっていて、アメリカの未来学者で発明家である、レイ・カーツワイルは、この指数関数的技術革新を「収穫加速の法則」と呼んでいる。


(出典:事業構想 Project Design Online)

 収穫加速の法則の先には、人間と人工知能の臨界点を指すシンギュラリティが存在するといわれている。この指数関数的な技術革新や社会構造の変化で、人間が十分に経験から学ぶ時間もなく、革新が先行しているのが現状であり、ビスマルクの言葉を借りれば、愚者は経験から学ぶだけの余裕も与えられないほど、変化の速度が加速しているといえる。

 しかし一方で「歴史は繰り返す」という、ローマの歴史家クルチュウス・ルーフスの有名な言葉がある。この言葉を信じるとすれば、過去に起こったことは、その後の時代にも繰り返し起こるということなので、収穫加速の法則が具現化されている現在であっても、繰り返す歴史の本質は変わらないと考えることもできる。

 生産管理の変遷においても、最近のIT技術の進歩で、Industry4.0やスマートファクトリー、デジタルトランスフォーメーションなどの新しいコンセプトの登場が相次いでいるが、歴史は繰り返すという観点から考えれば、その系譜を知っておくことは、決して無駄なこととはいえない。我々はこの加速された時間の中で、経験だけではなく歴史に学ぶことが、近未来の予測に繋がるのではないだろうか?そのような思いを託しながら、本篇の筆を進めていきたい。

 これから生産管理を学ぶ方、既に生産管理や改善の業務に携わっておられる方、その双方にとって、生産管理の系譜を学ぶことが有益なものとなり、賢者への道に繋がると伝えたい。

 モノを作る過程に生産管理というマネジメントが存在することは古今を問わない。生産管理の概念は、古代エジプトのピラミッドや日本の大仙古墳など、巨大建造物の施工管理の時代から存在していた。設計を起こし、資材や労力を集め、分配し、予定通りの工期と品質で作り上げようとするための営みは、人類の歴史そのものであるといってもよい。そして、ものづくりに必要なマネジメントや技術は、数学、物理学、化学、天文学、社会学、芸術、経営論、組織論、情報システム理論などに発展を遂げていった。

 本来は太古のものづくりの原点から紐解きたいところだが、連載では現代のものづくりの原形を形作った「産業革命」を起点とし、現代に至るまでの生産管理史を綴っていきたいと考えている。実質的に連載初回となる次回は「産業革命」により、産業構造が近代化したことをテーマにする。

 長期の連載となる可能性があるが、最後まで拙作にお付き合い頂ければ幸甚です。次回「近代社会の曙、産業革命」をお送りする。

2022年8月 抱 厚志

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