晩秋の時節到来で、朝夕の空気もかなり冷え込んできたと思えば、昨日からは打って変わって気温が上がり、今日はまた薄手の服で過ごしている。
近年は温暖化の影響なのか、天候不順が続き、春と秋、特に秋を感じる期間が短くなってきたような気がする。
四季折々、季節の移ろいが日本の豊かで繊細な文化や風情を生み出してきたものだと思うが、このままいけば、100年後に日本は雨季と乾季だけの亜熱帯になってしまうのではないかと危惧する研究者もいるようだ。
今回は久しぶりにものづくりのトレンドについて書いてみたいと思う。
気候は文化や芸術、場合によっては産業を育成し、最終的には国の形を作り上げる骨組みになることもある。
現在の日本は長い歴史の中で巡る四季のように、ゆっくりと繰り返しながら育まれてきた。鎖国を解いた明治維新以降、殖産興業・富国強兵の政策の下、大戦の敗戦も乗り越えて成長し続けてきたが、2000年以降の急激なグローバル化やインターネット革命などに乗り遅れて、失われた15年を過ごしてきたと言わざるを得ない。
特に日本の国力の根幹を支えてきた製造業(ものづくり)の空洞化は著しく、人、もの、金、技術、情報のすべての企業戦略は現状からの後退を余儀なくされた結果、日本のGDPの成長は大いに伸び悩んだ。
しかし、東日本大震災以降の国内景気は緩やかではあるが回復基調で、企業経営にも安定感が少し増してきたように感じ始めていた時に登場したのがIndustry4.0(第4次産業革命)である。
エクスのコラム「人とITの新しい協働のかたち」でIndustry4.0については書いたので、ここで詳細については触れないが、AIとIoTというIT技術の発展により、産業(特に製造業)は市場との距離が短縮され、企業・業種・国境の垣根を越えて、企業のプロセスを最適化することを求めるようになった。キーワードは『官民一体』であろう。
ドイツで生まれたIndustry4.0は、世界各国に大きな衝撃を与え、他国においても同様の官民一体の構想が出現した。
アメリカの「Industrial Internet」、中国の「中国製造2025」、インドの「Make in India」、フランスの「Industrie du Futur」などが代表的な事例である。
各国はその独自の構想を持って、第4次産業革命のデファクトスタンダードを取りにかかっているのが現状といえるだろう。
緩やかな回復に安寧を得ていた日本は、ここで大きな遅れを取ってしまう。
ものづくり先進国と言えば、西洋のドイツ、東洋の日本であろうが、2012年のドイツにおけるIndustry4.0構想発表の後、日本は新しい統一コンセプトを作ることができず、他国の後塵を拝している。
日本の場合、民間企業が経済を牽引してきたので、官民一体となる場合に官の主導力に欠ける。民間主導を目指すアメリカのIndustrial Internetについては、政府は民間の調整役、嚮導役を十分に果たし、民間の持つ力をひとつの方向に傾注する努力を怠らない。
企業、業種、国境を越えた最適化を行うということは、日本株式会社のサバイバルということであり、日本株式会社が早期に意思統一を出来なければ、この第4次産業革命では競争力が激減し、国力の衰退になりかねない。
日本は『系列』という強固な垂直統合をもって成長を重ねてきた。しかし今回の大きな変革は、企業という『垂直統合』、業種という『水平展開』、と同時に国境を越えるという『立体的な次元』で行わなければならない。
これはコンセプト主導でイノベーションを進めるアングロサクソン的発想に適しており、現場改善実績の積み重ねでイノベーションの方向を決める日本には苦手な方法といえる。
ゆえに戦後、これまでになかった強力な政府の嚮導(明確な方向付け)が重要であることは間違いない。
そのような中で2017年3月に発表された『コネクテッドインダストリーズ(Connected Industries)』。やっと来たかという感じではあるが、少なくとも日本株式会社が模索すべき方位は定まった。(地図の縮尺があっていない感は否めないが)
まだ粗々なコンセプトではあるが
①製造現場に蓄積されたデータを重要要素とする
Industry4.0などの他国の取組みはIT技術を軸に展開されており、正確で有効なデータの収集はこれからである。日本には蓄積されてきた精度の高いデータがあり、これはIT技術との補完関係となりうる。
②分野別課題の設定
次の4分野「スマートものづくり」「自動走行」「ロボット、ドローン」「バイオ、ヘルスケア」を特に強化する対象とする。これらはデータの利活用により価値創出が期待され、日本の強みが発揮できる分野であるとの判断である。
などが軸になっている。
引用:「今後の情報政策の方向性」2017/5/12、経済産業省
「コネクテッドインダストリーズ」の評価や可能性については次回以降にしたいと思うが、ものづくりに携わられている方は、METI Journal内「コネクテッドインダストリーズ」をご一読頂きたい。
第4次産業革命では、企業が持つ「つながり力」が企業間格差になるだろう。
どこと、どのように繋がるかという事がそのまま企業価値に反映されるのだ。
しかし繋がる双方の事情もあり、簡単に発展的な繋がりは作れない。
ここで双方のベクトルを合わせる軸が「コネクテッドインダストリーズ」であり、改革に向けた政府の役割は大きい。
コネクテッドインダストリーズの要諦の1つにデータ活用があり、その中でビッグデータの必要性は認められているが、その有効な活用方法について、まだ決定打はない。
しかし今後のIT技術の革新とともに、その活用方法は必ず出現する。
ゆえにデータを情報に、情報を知識に変えていくビッグデータの構築準備は、今から怠ってはいけないだろう。
現在の大きなトレンドを一言でいうと「繋がることによる大きな効果創出」である。
「間締め、コの字ライン、多能工化、シングル段取り」など自社単独(現場主体)で行う改善の効果創出は、大局的に見ると限定的であり、デマンドチェーン、サプライチェーンの最適化やIoTでの現場のリアルタイムの把握など社外に拡がる改善や改革を目指すことが、今後の重要な課題である。
日本の製造業はこの大きな変革をチャンスと捉え、乗り遅れてはならない。
2017年11月 抱 厚志