志士奮迅

2017新年を迎えて

 時代は変革期を迎えると、その象徴的なトレンドが偏重され、片側に寄って道筋が湾曲する傾向があるが、ゴールへの最短距離が直線であることは、いつの時代も変わらない。

改めまして、新年のお慶びを申し上げます。
平素の格別のご愛顧に感謝申し上げるとともに、本年も変わらぬご高配をお願い致します。

『事象には必ず二面性がある。』

 世の中のトレンドに変化があると、事象の二面性を重視しなければならないと考えている。

 光と影、陰と陽、裏と表、内と外、心と体、物質と精神など、1つの事象を指し示すと同時に、その反対側に同じだけの価値が生じるものだ。
 光を求めれば、影の存在を感じるし、外側に拡がろうとすれば、内側にあるものの価値が試される。
 物質的な幸福を求めれば、精神的な充足が欲しくなる。
事象には必ず、対となる価値観が存在するという事ではないかと思う。

 しかしゴールへの最短距離は、常に直線である。
右に寄ったり、左に寄ったりすることは迂回路を選択するという事であり、必ずしもゴールへの最短距離を選択したとは言い難い。

 この左右のバランスに配慮しながら、最短距離を求めることを中庸と言う。元来、中庸とは儒教における四書のひとつであり、儒教の中核を成す考え方であるが、現在では発展的に『極端な行き方をせず穏当なこと。片寄らず中正なこと。』と解釈されることが多い。

 変革期におけるトレンドを読む場合、この中庸の感覚が重要だと感じている。現在のITや経営においては、「AI(人工知能)」「IoT」「ビッグデータ」などをキーワードとした「Industrial Internet」や「Industry4.0」というコンセプトが、第4次産業革命の到来というトレンドを形成している。

政府が発表している「日本再興戦略2016」においても
ア)IoT を活用した健康・医療サービスの充実強化
イ)無人自動走行を含む高度な自動走行の実現に向けた環境整備
ウ)小型無人機の産業利用の拡大に向けた環境整備
エ)世界最先端のスマート工場の実現
オ)次世代ロボットの利活用促進
カ)産業保安のスマート化
キ)防災・災害対応に係る IoT・ビッグデータ・人工知能・ロボット等の活用推進
ク)i-Construction
ケ)FinTech
コ)キャッシュレス化等によるビッグデータの利活用促進
サ)IoT を活用したおもてなしサービスの実現

 などが重点施策として取り上げられており、まさにトレンドはデジタル技術の博覧会の様相を呈しているが、この第4次産業革命の実現によって、2020年には30兆円の付加価値創出を目指しているそうだ。

 また文部科学省では、「第4次産業革命による成長の実現に向けて、情報活用能力を備えた創造性に富んだ人材の育成が急務」との認識から、「AI、IoT、ビッグデータなどを牽引する人材育成総合プログラム」を発表し、「情報活用能力の育成・教育環境の整備」として、小中学校でのプログラミング学習の必修化を打ち出している。

 これらはデジタル(技術)への傾倒や偏向であり、一種のデジタル万能説とも言えるだろう。
 しかし前述のように、事象には必ず二面性があるとすれば、デジタルへの傾倒と対をなすトレンドとは何かを熟考しなければならない。

 その対を成すものを大きな括りで表現するとすれば、アナログ(技術)だと考える。
世情がデジタルに偏向すればするほどデジタルの限界が露呈し、その真逆にあるアナログ、すなわちデジタルでは決して補完できないものの重要性が浮き立ってくる。
 デジタルが重要視されるほど、アナログでしか補完できないものが見てくるということである。

『デジタルとアナログは二つでひとつの中庸を』

 先にも書いたように、ゴールへの最短距離は直線であり、直線とは中庸の道である。我々が望む社会の形をゴールとすれば、少なくとも次の社会変動のクリティカルパスまでは、デジタルとアナログの中庸を求めることが肝要であろう。光が差せば影ができるように、デジタルとアナログは二つでひとつの中庸を形成する。

 2045年問題やシンギュラリティによって、AIが人間の労働を奪ってゆくと言われているが、個人的には必ずしもそうなるとは思わない。AIやIoTはあくまでもデジタル技術であり、人間はこれを道具として使いこなし、人間でしか果たすことのできないミッションを模索することが重要だ。

 これからの時代は、感性や感覚という一見不合理に見える価値観や判断基準にアナログ独自の美しい価値が表現されるだろう。
 感覚や感性は必ずしもロジカルではないが、無駄に思えることが、必ずしも無益であるとは限らない。
 この無駄の積み重ねこそがAIに模倣されることのない、人間のオリジナリティの一端ではないかと思う。
 そしてこうした時期だからこそ、ポストAIを前提とした、社会システム、教育、製品やサービスの開発への取り組みが必要なのではないだろうか。

 弊社も第4次産業革命に対応すべく、数多くの製品やサービスの開発、提供を行っているが、真の最短距離を提供できる企業であるために、決してデジタル一辺倒ではなく、それを補完するアナログ的価値を有するサービスを開発し、カスタマーには中庸での最短距離を提供し続ける企業でありたいと考えている。

 時代はデジタルとアナログへの偏向を繰り返しながら、「Industrial Internet」や「Industry4.0」という大きなイノベーションへと向かって行く。
 ここへ到達する最短距離は「中庸」であると考えたい。

2017年 1月 抱 厚志

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