1年前に原稿を書いていた時は、このような事態の悪化を考えてもいなかった。
2020年は東京オリンピックの記念イヤーになると確信していたが、結果は新型コロナウイルスに蹂躙された一年だったといえるだろう。
新型コロナによって生活や仕事の様式は当然だが、社会的な価値観も大きく変動した。パンデミックが社会に大きなインパクトを与えたことは間違いないが、変化の起点というよりは、これまでの変化を加速させたとするのが正当な評価だと思う。いずれにしてもその変化は当初に予想した規模を超越する大きなものだった。
欧米中などではワクチンの接種が始まり、日本でも早ければ2月下旬あたりから接種を開始させる見込みとのことで、今後はワクチン普及度がウィズコロナからアフターコロナへの移行指標となるだろう。
この大きな変化の中での経営の舵取りには、より正確な予測が必要なので、年末年始はいつもよりも念入りに景況予測の資料を読み込んだが、新型コロナの経済へのインパクトは大きく、2021年の景況予測については政府、各シンクタンク、金融機関などでも例年以上のばらつきを感じた。
今年の景況予測は概ね新型コロナからの回復基調を唱えるものが多い。各種の景況分析を総括すると
2020年の世界経済のGDP実質成長率は、▲4.0~4.3%程度*
2021年の世界経済のGDP実質成長率予想は、4.5~4.8%程度*
あたりを予想するものが一番多かった。主観的にはもっと大きな落ち込みがあった様に感じたが…。主要国での回復ペースにはバラつきがあると考えられる。
世界で最初に新型コロナが発症した中国は国家全体主義の特性を活かし、いち早く防疫体制を確立したことが功を奏し、世界主要国が軒並みマイナス成長であった中、唯一1.9%*のプラス成長となり、2021年も製造業への投資・個人消費を中心とした自律的回復が続き、本年は7.0%*以上の実質成長が予測されている。
今後の世界における中国の影響力が増大することは間違いがない。
日本経済に大きな影響を与える米国の2020年の実質GDP成長率は▲3.7%*、2021年の成長率は3.9~4.2%*が予想されている。
今後の米国経済は営業活動の制約や規制などが強まり、2021年初頭にかけて厳しい状況が続くと予測されるが、その後は「コロナ禍への適応需要」の高まりが経済回復を主導すると考えられる。また、バイデン政権において大規模な景気対策が追加成立し、米国経済を下支えすると思われる。
ワクチン普及は欧米先進国・中国で先行しているが、ワクチン接種による集団免疫獲得には1年程度、ソーシャルディスタンスの制約解除もやはり1年程度の時間がかかると予測されており、新興国は普及開始・集団免疫獲得は先進国から3~6ヵ月程度遅れる見通しである。
そのような状況下での日本の景況は以下の予想としたい。
2020年の日本経済のGDP実質成長率は、▲5.0~5.5%程度*
2021年の日本経済のGDP実質成長率予想は、1.9~2.5%程度*
パンデミック以前から長年にわたる低成長が続いた日本には厳しい経済状況が続く。政府の第3次補正予算を中心とした経済対策による国土強靭化関連の公共投資やGoToトラベルの延長なども経済押し上げ要因と思えたが、最近の急速な感染再拡大で再び緊急事態宣言の可能性が高まることなどが経済政策の反発力を限定的とする理由となっている。
製造業においては、北米向けを中心に自動車関連の輸出増加、回復が先行した中国向けや販売促進政策効果が大きかった欧州向けの輸出増加が一服すると予想され、10~12月期以降は増勢が鈍化すると思われる。
5GのリリースによりIT・情報関連は今後も増加基調での推移が考えられるが、自動車を中心とした製造業の景況持ち直し一服やコロナ禍への適応需要(リモートワーク特需)の剥落により、2021年は増勢が鈍化するだろう。
他方、資本財関連は、設備投資の抑止、見直しで機械受注(外需)の見通しが弱く、2021年度もコロナ前の水準には戻らないと予想されている。
しかし過去の経済の大幅後退時(バブル崩壊やリーマンショック)には、2桁マイナス減の翌年はマイナス幅が大幅に縮小しており、両期間と比べて金融環境が相対的に良好であることなどから、2020年度の大幅後退から2021年度は小幅の増勢(プラス成長)に回帰するという見方もできるだろう。
政府は2020年12月8日の閣議において追加経済対策を決定し、事業規模は73.6兆円、国・地方の財政支出は32.3兆円― 国費は30.6兆円とした。うち2020年度第3次補正予算は20.1兆円の歳出規模となる公算が大きく、5~6兆円程度(2021年度のGDPを+0.6~0.7%程度押し上げ)の効果が期待される。その他の財政支出は、企業の資金繰り支援や、中長期的な業態転換支援を目的としており、短期的な視点で見れば、GDPの押し上げ効果は限定的と思われる。
ここまで景況予測の要点だけを列挙したが、2022年の半ばまでは現在のウィズコロナの状態は続き、世界経済は回復の傾向であるが、日本経済は従来の低成長とも相まって、急速な回復は期待できないというのが結論である。
故に今後の経営においては、新型コロナ感染拡大繰り返しの可能性を十分に考慮し、昨年の新型コロナ「対策」レベルから「施策」レベルに切り上げる必要がある。2年以上にもわたる課題は当然、中期経営計画の課題として対処すべきであり、短期の対策の繰り返しでは効果も限られているからである。
「ピンチはチャンス」というのは使い古されたフレーズであるが、新型コロナに対して施策として取り組み、新しい企業価値に変えることができる企業が伸びるだろう。事実、米国ではコロナ禍をビジネスチャンス獲得の機会と捉える動きも活発で、起業申請件数は2007年以降で過去最高水準となっているとの興味深い記事もあった。新型コロナにはワクチンができて、いずれ治療薬も開発され、そのリスクが大幅に軽減される時が必ずやってくる。
しかし社会の変化はパンデミック以前から進行しており、時代は「Data Age」と言われ、その推進の旗手はITであり、DX(デジタルトランスフォーメーション)であり、繰り返しになるが、パンデミックはそれを加速したに過ぎない。
パンデミックの環境下にあって、
1.成功する組織は重要なこと(顧客)に集中してビジネスを行う
2.オンラインファーストの人材戦略が未来を拓く
3.DXはさらに加速し、その勢いは衰えない
という予測のもとに行動することが必要という記事を読んだが、全くの同感である。
DXの必要性についてはこれまでの『志士奮迅』で述べてきたので、あえてここでは書かないが、IT企業である弊社の使命は重要で社会の変化を先取りし、価値あるサービスを提供しなければならない責任を感じている。
2021年はパンデミックの影響でまだまだ厳しい状況が続き、2025年の崖も超えていかねばならない日本であるが、必ず克服できる課題だと信じている。
高く飛ぶためには膝を折らないと飛べない。
志のある者だけが正しく膝を折ることができる。
この言葉をもう一度、自分自身に言い聞かせよう。
株式会社エクスでは、こうした事態の克服と新たな「Data Age」での企業発展を支援するソリューションやサービスの開発・販売に努め、「つながり方が企業価値を決める時代」における新しいものづくり経営の実現に寄与して参りたいと考えております。
2021年も社員一丸となり、開発、サポートに努めて参りますので、今後の弊社にご注目を頂き、倍旧のご愛顧をお願い致します。
末筆ながら2021年の皆さまのご健勝とご盛業をお祈り申し上げます。
2021年1月5日 抱 厚志
*参考文献
経済産業省「令和3年(2021年)年頭所感 ~経済産業大臣 梶山弘志~」2021年1月1日
帝国データバンク「2021年の景気見通しに対する企業の意識調査」2020年12月14日
日本総合研究所「日本経済見通し」JRIレビュー Vol.1,No.85,2020年12月24日
みずほ総合研究所「2020 ・2021年度 内外経済見通し ~世界経済は回復も、家計・企業行動の違いから各国でばらつき~」2020年12月10日
三井住友銀行「SMBC Retail Global Market View2020」2020年7月