【第10回】工程管理の奥義「ガントチャート」

 2月14日18時から、オンラインでものづくり新聞社主催の「生産管理系システム『ぶっちゃけ何が違う!?』 中小製造業向けシステムベンダー座談会」というイベントがあり、私もパネラーとして参加させて頂いた。

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 中堅・中小製造業に生産管理システムを提供するベンダー5社が集まって、ぶっちゃけ本音トークを繰り広げる企画である。基調講演では中小企業診断士の荒井氏を迎え、座談会では、ものづくり新聞の伊藤編集長をファシリテーターに、私以外のパネラーには、株式会社Thingsの鈴木社長、株式会社テクノアの山﨑社長、日本ツクリダス株式会社の角野社長、ものレボ株式会社の松下取締役の5名が登壇した。

 各社のシステムの得意分野や対応可能な生産形態、企業規模、開発の背景や目的などの説明を行い、チャットで寄せられた質問などに回答をしていく流れで進められた。個人的には弊社以外の4社の社長とも大なり小なりのお付き合いがあり、各社の製品特性なども存じ上げていたつもりだったのだが、ぶっちゃけトークの中には、私が考えもしなかったアイデアや意見などの気付きや学びがたくさんあった。お蔭で本当に楽しく有意義な時間を過ごさせて頂いたと感じている。

 イベントは20時までだったのだが、20時以降もアフタートークで約1時間の交流が行われ、最終的には大阪で懇親会を行う約束が交わされた。個人的にはベンダー側も標準化に取り組む共同体制が必要だと考えているので、これを機にベンダーの連合としてダイナミックな動きに繋げていきたいと考えている。
 今後もこうしたイベントには積極的に参加をしていきたい。

 さて今回も、生産管理史(改善の系譜)についてである。
 これまでは、改善の系譜の中でも比較的古典的であり、その背景などの説明も重要だったので、比較的ゆっくり解説をしてきたのだが、ここらから少しペースを上げるところとゆっくりすべきところを判別しながら進めていきたいと思う。

 今回、掘り下げるのは読者の皆さんもご存じの方が大半だと思われる「ガントチャート」である。工場においても、生産計画や日程計画、改善などのプロジェクト計画などの多くの場面でガントチャートは利用されている。

 ガントチャートとは、横軸に時間を、縦軸に作業や業務内容などのイベントを配した棒グラフ状の一覧表である。開始日から完了日まで、タスク単位の帯状グラフが一覧できるので、全体の進行や作業の配列などを把握しやすいのが特長である。組織によってはガントチャートではなく、スケジュール表と呼ぶ場合もある。

ガントチャート

 ガントチャートには通常、次の項目が含まれる。
1.タスクの日付と期間
2.タスク(作業内容)
3.タスクの担当者
4.マイルストーン(プロジェクトを完遂するための中間目標地点)

 ガントチャートはマイルストーンと相性が良いとされていて、ガントチャート上にマイルストーンを置くことで、そこを通過しなければならない期日が可視化され、チーム全体で明確に共有できる。

 製造業に限らず、多くのビジネスシーンで活用されているガントチャートは、その名前からガントが発明されたものと思われがちだが、現存する最古のガントチャート様式はポーランドの経済学者カロル・アダミエッキ(Karol Adamiecki)により発明されたと考えられている。1896年にアダミエッキによって考案されたチャートはハーモノグラム(harmonogram)と呼ばれており、彼はハーモノグラムをロシア語とポーランド語で出版したため、英語圏の国での認知が進まなかった。その後、1910年にヘンリー・ローレンス・ガント(Henry Laurence Gantt)が独自に米国で同様のチャートを考案した。こちらは工場で働く労働者が、指示されたタスクに消費した時間を表すために開発されたもので、後にハーモノグラムと統合され、我々がよく利用している現在のガントチャートの原形が生まれた。

Henry L. Gantt

 ガントは、1861年メリーランド州で生まれたアメリカの機械工学者、経営コンサルタントであり、前述のように1910年にガントチャートを考案したことで有名である。後年、ガントチャートはフーバーダム建設や州間高速道路などの大規模公共事業でも使用された。ガントチャート以外にも、「task and bonus」とよばれる賃金体系を設計し、労働生産性についての測定法を開発した。

 製造業の関係者であれば、必ず一度はガントチャートを作成した経験があるといっても良いほど代表的なプロジェクト管理ツールになっている。現代ではガントチャート作成専用のソフトも多数販売され、また、Excelなどを使って、ガントチャートを作成することも多い。それほどガントチャートはポピュラーなものになっている。

 ガントチャートのメリットは
1. プロジェクト全体の可視化が容易
2.プロジェクト内メンバー間での共有が容易
3.表記が平明なので誰にでも扱いやすい
4.マイルストーンが確認できる
5.リアルタイムチャートとして活用できる
6.タスク間の依存関係の可視化が可能
等を、挙げることができる。

 ガントチャートに似たプロジェクト管理手法にWBS(Work Breakdown Structure:作業分解構成図)があるが、WBSはタスクを細分化した「リスト」であり、一方、ガントチャートはそれらタスクのスケジュールを可視化することを目的に作られる「グラフ」であることが相違点である。

 一方、ガントチャートのデメリットは
1.各タスクの工数が把握しづらい
作業に必要な工数(時間)情報はガントチャート上で読み取れないため、スケジュールに過負荷などが発生し、予定通りに作業が進まないトラブルが起きる。これは先述のWBSとの併用で対応する事が望ましい。
2.タスクの相関関係が見えない
ガントチャートの目的は作業スケジュールの共有にあり、タスクと開始日時、終了日時だけを表記する簡単な構造である。メンバー各自のスケジュールを把握するには便利だが、タスク同士の相関関係が見えにくい。
3.プロジェクトにおける開発手法の変化
これまでプロジェクトにおける開発手法はウォーターフォール型と呼ばれる上流工程から逐次、開発を行う手法が主流であり、ガントチャートと相性が良く、工程管理の手法として広く利用されていた。しかし、最近では短期間で小さくプロジェクトを回すアジャイル型と呼ばれる手法が一般的になっており、ガントチャートで管理するのに適していない。

 上記のように、ガントチャートにはメリット・デメリットがある。WBSで洗い出したタスクはガントチャートを作成のベースとなり、これらの併用こそが効果創出に繋がる場合が多いことを理解しておく必要がある。

 ガントチャートは工場に限らず、多くの場面で利用され、ビジネスに必携のツールとして拡がり、プロジェクト管理や工程管理の代表的な管理ツールとなった。しかし、平明であるが故に、デメリットを克服することができなかった。そして、デメリットを克服するために誕生したのが、1985年のアローダイアグラム(PERT図)であるが、これは改めて別の機会にご紹介させて頂きたい。

 ガントチャートが工程管理に寄与した功績は大きく、その後のプロジェクト管理手法もガントチャートにおける考え方をベースにしているものが多い。

2024年 2月 抱 厚志