PDXを考える<2>

 2022年も厳かに幕を開けた。
と言いたいところだが、世情はオミクロン株のニュースで溢れている。正直なところ、新型コロナのニュースには辟易とされている方も多いのではないだろうか?

 世界では感染急拡大で、1日の新規感染者数が過去最高となっている国が多い。国内も各地で過去最高の感染者数を記録しており、大都市圏をはじめ、各県でも同じような状態になりつつある。それほどオミクロン株の感染力は強いのだが、ひとつ救いに見えるのは、その重症化率が比較的低く、感染者数の伸びと比較しても重症者数があまり増えていないことだ。

 しかし医療従事者の感染により、医療現場での人手不足で医療崩壊を起こす可能性があり、まだまだ予断を許さない。ワクチンだけでは限界があるので、新型インフルエンザのタミフルのような治療薬が出ることを心から願っているが、それまでは自己防衛に徹するしかないだろうと思う。

 さて前回は、PDX(パーソナル・デジタルトランスフォーメーション)をテーマに個人のデジタル化を進める面白いツールをご紹介したが、今回はその2回目として、自分が利用しているいくつかのツールを紹介させて頂きたい。

 今回、まずご紹介したいのは
「Scrapbox(スクラップボックス:https://scrapbox.io/)」。

 これは個人もしくはチーム内で切片化した情報にリンクを張り、連携させながら情報管理の効率化を目指すツールである。皆さんも生活やビジネスの中でメモを取られることが多いと思う。最近はスマホやタブレット、PCなどでもメモを取ることができるので、メモのテキストや図表がデジタル化していることが多い。特にインターネットが普及してからは情報過多の時代で、本当に重要な情報はしっかりメモをして、検索できるようにしないと、情報の洪水の中に埋没してしまう。

 私自身はこれまで、メモを取るには「Evernote」というツールを利用してきた。最近のEvernoteは閲覧していたWeb画面をワンクリックでClip保存でき、メモの分類や検索機能も充実している。メモを平面的に管理し、検索を行うイメージで、Evernoteは自分自身のGoogleを作るイメージに似ているといえる。

 一方、今回紹介する「Scrapbox」は、知識や情報のページを作り、それをリンクでつなげて、知識をネットワーク化するツールである。メモを構成する語彙にリンクを張る、ページ間リンク機能があり、メモ間でワードやセンテンスを連携させることで、個人のWikipediaを作るイメージに近いことが実現できる。知識を部品化、リンクして、その切片たる情報を使いやすくすることが目的であるので、リンクが多いほど効果は大きく、メモ後の知識の整理や体系化に大いに役立つものだ。例えばScrapboxで日記を書いて、日付やキーワードにリンクを貼っておけば、それらをインデックスとして、体系的な知の検索が可能となる。日付のリンクで検索し、メモが存在すれば、自分、自分以外のことに関係なくリストアップされていくので、連続的な検索が実現する。Wikipediaで文中のリンクにより、知識のドリルダウンを進めていくのと同じ要領だ。また複数人による同時編集も可能なので、個人での利用はもちろんだが、プロジェクトやチームで知識を共有及び体系化するのにも大いに役立つツールといえるだろう。メンバー間で知識ネットワークが拡がることが、個人やチームとしての成長や成功に繋がることは間違いない。テキスト以外にも、ドラッグアンドドロップやコピーペーストを利用すれば、各種の画像や動画、Google Mapの地図の貼り付けなどが利用可能であり、イメージデータにより抽象的な概念の理解を支援している。SlackなどSNSとの外部連携機能もあり、256bitのSSL暗号化通信による保護が実現されているのでセキュリティ的にも問題ない。

 Scrapboxの料金体系は、
1.個人・教育での利用は、ページ数・人数ともに制限なしで無料 
2.ビジネスでの利用は、ページ数・人数ともに制限なしで月額1000円/ユーザー
となっており、ビジネス利用の場合も100ページまで無料の試用が可能。知識の広範さを求められ、情報過多で体系化が難しい現代に有効なツールである。情報の知識化を求める方にお薦めしたい。

 次に紹介したいのは、
リモートコラボレーションの可能性を広げるオンラインホワイトボード「Strap(ストラップ:https://product.strap.app/)」。

 ここ2年間で働き方も大いに変わった。在宅勤務やテレワークの増加によって、仕事やプロジェクトの進め方も変化した。これまでオンサイトで行っていた打ち合わせはオンラインに変わり、資料は紙からデジタルへと移行した。皆さんはオンライン中心で作業を進める中で以下のような問題に直面したことはないだろうか。
 1.メンバー間での利用ツールに対する理解や操作能力の違い 
 2.オンラインでは難しいアイデアの整理や構造化
 3.プロジェクト内の個人に点在するドキュメントの共有
 4.資料の体裁づくりに掛かる多くの時間
 5.オンラインミーティングでのコミュニケーションの限界
 6.思考の残存性の希薄さ(アイデアが体系的に資産とならない状況)

 特に製品開発や事業企画など新しいアイデアを検討するクリエイティブなミーティングでは、そのコミュニケーションにおいてオンサイトの打ち合わせに一日の長があることは否めないだろう。半面、アナログゆえの問題点も多く存在し、デジタルとアナログの良さの両方を享受できるコミュニケーションツールがあれば、テレワークでも大いに生産性を高めることができるはずで、それを前提とした数多くのオンラインホワイトボードがリリースされている。私もいくつかのオンラインホワイトボードを使ってみたが、現在のところStrapが一頭地抜けているように思う。

 Strapの特長(できること)は
 1.無限の広さを有するホワイトボードでリアルタイムのコラボレーションを実現
 2.プロジェクトのアウトプットの一元管理
 3.豊富なテンプレートを利用して、考えながら打合せと資料作成を同時実現
 4.図形を選択して矢印が表示されるスマートアド機能で簡単にフローチャート作成が可能
 5.チームやプロジェクト単位でスペースを作成し、見たいボードに簡単アクセスが実現
 6.ボードの公開範囲指定で、メンバー限定のボード共有が実現
などが挙げられる。ここではその豊富な機能を説明しきれないので一度HPや機能紹介動画などを覗いて頂きたい。

 価格は、Smallプラン(~20名)で24万円/年、Mediumプラン(~40名)で48万円/年<いずれも税抜>、それ以上は別途見積もりとなっている。クリエイティブなチーム力を求めるユーザーにはお薦めのツールだ。

 そして最後に紹介したいのは、弊社サービスなので恐縮だが、
バーチャルワーキングスペース「LoooMs(ルームズ:https://loooms.site/)」だ。

 2022年のCES(Consumer Electronics Show)で注目が集まったのが「モビリティ」と仮想空間「メタバース」である。仮想空間で経済活動やビジネスが可能になれば、現在の社会価値や構造は大きく変化すると考えられており、バーチャルワーキングスペースとして提供されるツールも増えてきた。弊社でもテレワーク支援システムの一環として、昨年にLoooMsβ版をリリースさせて頂いた。

 弊社は大阪本社以外にも、東京、名古屋、福岡、沖縄、東大阪にオフィスがあり、テレワークを導入しているので、働く場所の分散化や細分化が進んできた。その様な中でLoooMsは、離れた拠点や地域で作業を行うリモートワークの社員達がまるで1つのオフィスで一緒に働いているかのように感じることができる次世代のコミュニケーション空間として設計した。

 特長は
 1.バーチャルワーキングスペースで一緒に働く新しい形のリモートワークを実現
 2.フロア設計から座席・アイテムのレイアウトまで、自由にオフィス空間をカスタマイズ可能
 3.ミーティングカードをクリックするだけで設定されたWeb会議が起動。4人掛けテーブルでのグループミーティングや、1対1でのビデオ通話も可能
 4.Google MeetやZoomをワンクリックでスタートさせる、外部のWeb会議サービスと連携を実現
などであり、手前味噌な話で恐縮だが、非常に便利で使い勝手が良い。弊社の社員はブラウザーを起動すると自動的にLoooMsが立ち上がり、オフィスへ出社している社員もテレワークで在宅の社員も、この仮想空間にサインインされる。各自の現在のステータスも分かるので、Busyの時にコンタクトされる煩わしさもない。会議予約なしのワンクリックで1on1のビデオ通話もできるし、会議室に移動すれば複数人でのオンラインミーティングも簡単に開催できる。またシステムの初期設定も難しくない。コミュニケーションが最重要課題であるテレワークには有効なツールであるが、将来的には工場のレイアウトなどもデザインできる様にして、IoTや生産管理システムと連携し、バーチャルな現場の可視化を実現したいと考えている。

 現在のところ利用は無料、フルスペックの利用が可能。体験利用も用意されているので、ぜひ一度、体験利用を検討して頂きたい。テレワークや多拠点でのコミュニケーションに問題を抱えるユーザーにお薦めしたい。

 これまで2回にわたって、PDXについてツールの紹介を行ってきた。今後、組織の縦と横、オフィスと現場、個人とチームをつなぐものはデータであり、デジタルである。デジタル化の基本はビット化であり、作業や行動をビットまで分解する、すなわち抽象化してから具体化することにあるといってもよいだろう。一度、上げて(抽象化)から下げる(具体化)というプロセスが重要なのだが、そのために作業管理の最小単位である個人がデジタル化をしておくことは、デジタルによる効率化を図るうえで必須のことといえよう。私はデジタル化の盲信者ではないが、人と人や、モノと人がつながることに重要性がある現代において、個人がデジタル実装する意味は高いものがあると確信している。

 誌面に限りがあるので、自分が利用しているすべてのPDXツールを紹介できてはいないが、今後はさらにコンビニエンスで有益なPDXツールが登場するだろう。
読者の皆さまのお薦めツールがあれば、ぜひご紹介頂きたい。

2022年1月 抱 厚志