製造業における「働き方改革の進め方」
(大橋高広氏寄稿-1回目-)

 時流はDXの登場でデジタルの時代へと大きく傾いています。
物事に偏向が生じれば、その反対側の価値も増すので、デジタルでは対応できないアナログの重要性が増してくると考えられます。私はそれを「アナログの純度が高まる」と呼んでいますが、アナログの最たるものが「人」であり、マネジメントから考えると「人事」という事ができるのでしょう。

 HR-Techの流行で人事もデジタル化しているのではと考える方も多いかもしれませんが、残念ながら人事におけるプロセスの効率化は進んできたものの、人を扱う本質は未だにアナログなものと言わざるを得ないと考えます。

 本ブログでもDXの重要性を語って参りましたが、ここで敢えてアナログの純度について話を展開してみたいと思います。私は人事の専門家ではありませんので、人事のプロフェッショナルに今後、数回にわたり寄稿をお願いしました。

 今回の寄稿は、株式会社NCコンサルティング代表取締役社長の大橋高広様です。大橋社長は製造業やものづくりにも通暁された人事コンサルタントで、「リーダシップがなくてもできる職場の問題 30の解決法」など3冊の著書を上梓され、ツイッターのフォロワーも1万人を越えておられます。偶然にも同じ大学同じ学部の出身で、今回はご多忙の中、先輩である私の無理を聞き届けて下さり、本ブログに寄稿して頂ける運びとなりました。私も皆様と一緒に大橋様から学ばせて頂こうと思います。

大橋社長、宜しくお願いします。


製造業における「働き方改革」の進め方

 はじめまして。株式会社NCコンサルティングの大橋高広と申します。
「管理職研修・新入社員研修・人事制度設計」の専門家として活動する傍ら、ビジネス書作家としても活動しております。
このたび、製造業における働き方改革をテーマに、月に1回、半年間の連載をさせていただくこととなりました。皆さまのお役に立てますよう執筆してまいりますので、お読みいただけましたら幸いです。

さて、働き方改革関連法が施行されてから2年が経ちました。
企業においては大きな変革期であったと思いますが、本稿では、働き方改革を通じて職場はどう変わったのか、この先どのように働き方改革を進めていくのが良いのか考えてみたいと思います。

そもそも働き方改革の狙いは、「長時間労働の是正」「正規・非正規の格差解消」「多様な働き方の実現」の3つです。
この中でも、長時間労働の是正に取り組んでいる企業は多いのではないでしょうか。
リクルートマネジメントソリューションズ社の「働き方改革」と組織マネジメントに関する実態調査2019によると、「長時間労働者の減少」や「業務効率・労働生産性の向上」について成果を実感している企業が多いという結果が出ています。しかし、業務改善などをすることなく無理に労働時間を削減し、業務や人材育成に支障が出ていることもあるのではないでしょうか。働き方改革は大企業・中小企業問わず取り組んでいくものと提唱されていますが、余力のある大企業が有利であったり、パソコン仕事がほとんどであるIT関係などの業種が有利であったりするのが現実です。

例えば製造業で長時間労働の是正を実施しようと思えば、必然的に現場での作業時間やOJTの時間は削られます。そうなると、ベテラン社員がもつ高い技術をいつまで経っても若手社員に継承できず、ベテラン社員が作業をし続けるということになります。これまでは、現場のベテラン社員が担当業務と並行して技能承継を実施していました。そのため残業が発生することもありましたが、OJTをする側とされる側の両方において、時間的な負担は少なく技能承継をすることができました。しかし、今はそれができないのです。しかも、業種柄、製造の仕事を若手社員が自宅で習熟するというのは現実的ではないでしょう。

また、多様な働き方の実現についても、バックオフィス業務に従事している人はリモートワークの導入などに取り組みやすい環境がありますが、現場でものづくりに従事しているスタッフにとっては、実現性は低いといえます。職人の技術力向上には時間がかかりますし、その技術力があってこそ高い品質が保たれている側面があるため、無理もありません。

では、今後どのように働き方改革を進めていけば良いのでしょうか?私のおすすめは下記の3つです。

1.自責思考の社員の採用と育成
2.属人業務の見える化
3.OJTのプログラム化

まず、「1.自責思考の社員の採用と育成」についてですが、働き方改革により長時間労働が劇的に減少しました。そして、セクハラやパワハラなどのハラスメントもなくなっていっているはずです。それ自体はとても良いことです。しかし、会社や管理職が萎縮してしまい、スタッフへの教育が疎かになってしまっているという課題も同時に発生しているのではないでしょうか。
そこで重要になるのが、「自責思考で自発的で積極的な社員の採用と育成」です。今の時代、スタッフを厳しく指導することが難しくなりました。だからこそ、スタッフには「自発的にスキルアップし、自ら計画して行動し成果を出すことができる」ことが求められます。そのため、自責思考は必須といえます。とくに幹部候補の人材は、昭和や平成よりも、さらに優秀な人材を採用し育成していく必要があります。

次に、「2.属人業務の見える化」についてですが、製造業においては、いつの時代も技能承継が課題になります。「ベテラン職人の匠の技」といえば素晴らしいのですが、事業継続の視点で考えると、「ベテラン職人がいないとまわらなくなる」という不安が常につきまといます。私は職業柄、いろいろな場面に遭遇することがありますが、私の知る限りでは「この人がいないとまわらない」と言われていた人が一人辞めたからといって、潰れた会社を見たことがありません。であるなら、大企業では普通に行われている「異動」を、中小中堅企業においても実施することをお勧めします。なぜなら、担当業務を離れる際には「引き継ぎ」が行われますので、定期的に「引き継ぎ」を実施していくことにより、業務の属人化が軽減されていくからです。

最後に、「3.OJTのプログラム化」についてですが、スタッフの人材育成を現場(の管理職)任せにしていると、なかなか進んでいないことがほとんどです。現場は「仕事で忙しい」と言いながら、育成を後回しにする傾向がありますが、事前に伝えたとしても半年一年経っても忙しくなくなる日は来ません。
そこで、スポーツにおける選手とコーチのように、ビジネスでもスタッフ(管理職)【=選手】と、人事部(なければその他の管理部門)【=コーチ】が一体となって、育成を進めていくことが有効です。
具体的には、月次などで実施する具体的な教育内容を決めて、半年間ほどのスケジュールをつくり、人事部がその進捗を現場の管理職に確認します。
現場の管理職も人間ですので自発的に実行すべきではありますが、コーチがいる方が成果は出ます。また、進捗確認をすることで、人材育成を後回しにさせない効果があります。

いかがだったでしょうか。
今回は、今後ますます重要となる「働き方改革の推進」についてお伝えしました。ご興味をお持ちいただける内容が一つでもございましたら、ぜひ貴社でも実施していただけましたら幸いです。

また、下記のリンク集から各種人事ツールを無料ダウンロードしていただけますので、ご活用いただければと思います。
なお、研修やコンサルティングなどに関するお問い合わせにつきましても、こちらからお気軽にご連絡くださいませ。

【大橋高広リンク集】 https://lit.link/ohashitaka

それでは、また次回の連載記事にてお会いできるのを楽しみにしております。

(文責:大橋高広)