あなたの会社の経営を変える「夢工学Ⓡ」のすすめ
〔第2回〕パトス論(理念論)
~ 有馬諄様寄稿 ~

 こんにちは。オフィス有馬諄代表の有馬諄(ありましゅん)と申します。国内外の企業の経営コンサルタント、経営顧問として活動をしております。
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 第1回目でご紹介しましたが、夢工学は「夢」を持つことができた人、既に「夢」を持っている人が、もし「夢」を実現させ、成功させたいと望むなら、どうすればよいかを説いたものです。また夢工学では夢とは何か?とは定義はしません。なぜならば夢は自由に見るものですから、「これが夢だ!」と決めたモノやコトが夢であり、好きなこと、やりたいことなど目覚めている時に見る夢の全てが対象になります。私は経営コンサルタントや経営顧問として企業さまのご支援をさせていただく際に、夢工学の継承者としてその「在り方」と「やり方」を適用して、大きな効果とたくさんの感謝を経営者さまからいただいています。


 
 さて、第2回目となる今回は「夢工学」のパトス論(理念論)についてお話しします。パトス論の「パトス」とは、パッション(激情)のラテン語が語源です。ネットで検索すればすぐ目にすると思いますが、倫理学においてのパトスとは「一時的な感情状態」を指す言葉です。感情の強弱はあまり関係なく、あくまでも一時的なものであることと、心の内側から出る感情です。時代の推移とともに倫理学の意味から派生して、今ではパトスを「情熱などの強い感情の動き」という意味で使われ、激しさや高ぶり、熱狂や血湧き肉躍るという熱情のニュアンスで使います。みなさんも経験があると思いますが、自分が夢を抱いた瞬間はどこかを強い目力で見据えて気勢を感じます。夢工学はこの情熱の強い感情の動きから湧き出た夢がスタートなのです。

 話は逸れますが、アリストテレスの「弁論術」の中で説得の三原則が語られています。多くの人の前だけではなく1on1などのビジネスコミュニケーションにおいて有効ともいわれます。この三原則はパトスを「感情」、ロゴスを「論理」、エトスを「信頼や人柄」と意味付けて、ロゴスを正しく伝える時にエトスを共感的に伝え、パトスを信頼できるものとすることで、ロゴスに対する賛同を得る、という話し手の伝え方としても参考になります。

 夢工学においてパトスは、情熱、熱狂、意志、意欲、ガッツなど夢実現への熱中で表現される精神活動を促す源泉力で、脳生理学の主として旧皮質の働きに由来するものです。大まかに「感性」の意味と考えてください。単なる精神論やガッツ論ではありません。パトス論は、夢を実現し成功させるプロジェクトの過程で「最も望ましいパトス(感性)の精神活動とそれに基く行動とは何か?」を説いたもので、「念」の理論、即ち「理念論」と言い換えてもよいです。Who likes not his business,his business likes not him.…「好きこそ物の上手なれ」が最も望ましいことなのです。

 次の体系図にあるように、パトス論は夢存在論、変身論、創造開発論、エントロピー論、体得論、成功論、自己実現論の7つの各論で構成されています。

夢存在論:夢の驚くべきパワーを信じて生かす

 「夢存在論」とは夢を持つことの重要性と有効性であり、夢の驚くべきパワーを信じて生かすことを説くものです。夢を持ち続ければ、夢は必ず実現する。実現すると信じれば誰しも夢の実現に挑戦する。過去の歴史を振り返えれば、夢を持ち、夢の実現に挑戦した多くの人々が未来予測を逆かに超える現在の世界を築いたことが分かります。

 卑近な例では、先日のWBCでの活躍が記憶に新しいMLBロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平選手が、高校一年生の時に「8球団からのドラフト1位指名」という夢を持ち、夢を達成するために必要な8つの要素と具体的な目標を記して実現しました。夢の存在と夢の実現性の間に極めて強い因果関係があります。この因果関係を証明する事例が世の中に数えきれないほど存在します。

●夢実現因子
 夢がなければ夢は絶対に実現しない。夢を持ち、夢を言葉に、絵に、何らかの形に変え(具象変換)、その夢を持ち続ければ、その夢そのものが夢を実現させるパワーを生む因子に変質します。その結果「夢は必ず実現する」のです。しかも夢を実現させると、更なる夢を実現させる自信を持つことができます。夢は楽しいこと、おもしろいこと、ウキウキすることと同義で、夢を持って着々とその実現に向かっている時ほど楽しいことはありません。また夢が実現して、しかも成功した時は、人生最高の日になります。創造のエネルギーの源流をたどると夢に行き着くことからも「夢こそすべて」なのです。

●夢成功因子
 夢工学では「運」は成功の因子ではなく結果論であり、チャンスと考えます。運が良かったから成功した、運が悪かったから失敗したと考えず、夢の実現と成功のシーンである「未来の結果」を描き、それを生み出す「現在の原因」を自ら作ったから夢は実現し、成功したのだと考えます。

●失敗克服因子
 夢があるからこそ失敗を覚悟し、失敗しても挫けず、失敗を克服して、夢の実現と成功に再度挑戦することが出来ます。夢がなければ失敗したまま挫けてそのまま終わってしまいます。夢は失敗を克服し、逆境を克服するパワーを持つ基本因子なのです。

●才能因子
 夢を持つことによって楽しく、自由で、活発な活動を生むことができます。夢は「好きなこと」と同義です。好きだから頑張れる、好きで好きでたまらないから努力は全く苦にならない、好きだから努力できるパワーを得る、好きだから失敗を恐れない、好きだから逆境に耐えられる、好きだから新しいことに挑戦できる、好きだから夢を実現し成功させることができる…みなさんもこの様な経験をされたことがあるのではないでしょうか?或る人に或るコトを「好きだから」と言わしめるものとは、天がその人に授けた「才能」なのです。従って夢、即ち好きなことを持っていることは才能を持っていることと同じです。
 夢工学では、或る人が或るコトに異常に強い好奇心を持ち異常に好きな場合、その人は「天才の才能」を持ちそのコトに目覚めて行動した結果「天才」になると定義しています。異常ではないが極めて強い好奇心を持ち極めて強く好きな場合、その人は「俊才の才能」を持ちそのコトに目覚めて行動した結果「俊才」になると定義しています。異常でもなく極めて強くではない人は、「普通の才能」を持ち「普通人」と定義しています。しかし「※夢工学式発想法(デック思考)」「デザイン思考」などの発想法を体得し実践すれば、普通人は俊才に、俊才は天才に近づくことが出来ると夢工学は説いています。(※別の機会があればご紹介をします)

●やり甲斐因子
 仕事の目標と自分の夢が一致する人は最高の幸福者です。その仕事の達成でやり甲斐は最高値になります。日々働いていること自体が自分の夢の実現と成功への道程になる人は、毎日がやり甲斐の日々となり、明るく生き生きと働けば、客先や上司、同僚、部下から応援・支持・評価を容易に受けるようになります。その結果、夢の実現や成功への道程がますます近くなるのです。

●生き甲斐因子
 生き甲斐のある仕事をして生き甲斐のある生活を送れるということは、夢のある仕事をして夢のある生活ができることを意味します。その人は、この世で最も幸せな人生を歩むことができます。一方、生き甲斐を持たない人、言い換えれば夢を持たない人、夢を捨てた人は、不幸な人生を歩むことになりそうです。どんなに小さな生き甲斐でも、夢でも構いません。それを実現させ、成功させることが新しい人生づくり、ビジネスづくりが始まります。夢のない生活、夢のない企業、夢のない国は存在価値がありません。生き甲斐のある生活を築くことが、夢の実現と成功への第一歩です。

●健康維持因子
 西洋医学でも東洋医学でも共通して「健康の最大の敵は精神のストレス」という結論を導いています。精神のストレスは心の悩み、夢のない生活、悪夢の経験などによって引き起こされる健康の最大の敵です。夢を持って好きなことをしている人は、夢実現への挑戦がもたらす緊張の日々と同時に好きなことをしている満足がもたらすリラックスの日々が保証されます。この適度の緊張と弛緩が自律神経の正常な働きを維持するので病気などを引き起こしません。健康維持の最良の方法は、夢を持ち、ストレスを解消することであり、夢はまさに健康の最高の良薬なのです。

●生命維持因子
 今ウクライナの国民はミサイルや砲弾が降ってくる恐怖の毎日を過ごしているでしょう。彼らは必ず勝利する、必ず解放されるという「夢」を強く信じ続けることによって生き延びる意義を見出しているはずです。過去の戦争や災害においても絶望から立ち上がる精神力を得て、生死の境をさまよう最悪状態の肉体を維持する力を獲得した例は多くあります。

●死受容因子
 精神科医のエリザベス・キューブラー・ロスが出版した「死ぬ瞬間」は、臨死患者へのインタビューの報告と死に至る心理を分析した有名な著書です。その中で、死を静かに受容し平和と威厳と平静の悟りを持って死んでいった人物は、一生を苦労と激しい労働のうちに過ごし子供を立派に育て上げた人物、または自分の成し遂げた仕事に満足し、人生に悔いがない人物、そして「夢」を実現した人物であった、とあります。

変身論:常に自分の変身を心がける

 常時変化する環境への最善の対応や問題解決の対策が「変身」です。変身とは、第1に個人主義(自己中心主義ではない)、自立性、冒険性、競争性、集中性、少数決断主義、オンリーワン指向などの積極要因を自らの精神構造に組み込んで、新たな行動を起こすことです。残念ながら現在の多くの日本人ビジネスパーソンに欠落している要因です。第2に自らの精神構造から集団主義、超協調性、閉鎖性、形式主義、現状維持主義、減点主義、前例主義、ナンバーワン指向などの消極要因を排除し、新たな行動を起こすことです。残念ながら現在多くの日本人ビジネスパーソンが持っている要因です。夢工学では変身こそ常に、確実に、急速に変化する環境への最善の対応策と考えます。世界が激変する時代に「現状維持」では取り残されてしまいます。現状維持は最も危険な選択です。夢を実現し、成功させるためには常に自己革新、自己改革、自己革命を目指して、自分・自社の変身を遂げることが重要です。

 ちなみに最近日本でもDX(Digital Transformation)がビジネス用語として定着し、企業経営においてもデジタル活用の重要性が問われ多くの企業がDXに取り組んでいます。しかし新規製品・サービスの創出や、顧客起点の価値創出によるビジネスモデルの根本的な変革で成果を上げている企業はまだ20%ほどです(米国は約70%)。DXの本質はX =Transformation(変身)です。変身とは「新しい価値」を創造することができる企業人(経営者と社員)と企業母体(組織や仕組み)に変身することをいいます。DXを成功させる人材像は、デザイン思考やアジャイルな働き方のマインドを持ち、顧客・ユーザーへの共感、変化への適応、コラボレーション、常識に囚われない発想、事実に基づく判断、柔軟な意思決定などができる変身成功人材です。新しい価値を創造するには下記の「創造開発論」によって「優れた発想(アイデア)」を生み出し、「優れた発汗(行動)」をすることが求められ、創造に挑戦する「情熱」を生む夢の存在は絶対に欠かせません。

創造開発論:最強の問題解決策である創造に挑戦する

 「創造」とは最強の問題解決策です。全く斬新な創造を遂げることが夢の実現と成功の秘訣なのです。パトス論としての創造開発論では、創造のための感性が大切であり、創造を行う場合は心構えと感じ方が特に重要です。まず創造の扉を開くアイデアの閃きをつかまえるのが感性の働きです。しかしアイデアの閃きが生まれても時間の経過と共に薄れ消えていきますから忘れずに記録しましょう。また閃きや優れたアイデアが生まれた瞬間を大切にして、正しいかどうかという理性による検証は後にしましょう。重要なことは感性の働きの新鮮さを大事にすることなのです。心構えとして身につけたい姿勢は、固定観念、既成観念、先入観念を打破する志向です。簡単なことではありませんが、新しい観点を見つけることこそが創造の必須要件です。自分にはとても無理だと引いてしまわず、創造することに身構えず、創造は「楽しい」と感じることが大切です。

エントロピー論:環境激変を認識して夢を保持する

 本来のエントロピーとは、熱力学における不可逆性の度合いを数値化したものです。分かり易くいうと、熱は温度の高い物から低い物に流れて元には戻りません。全てのモノやコトは放っておくと常に、確実に、例外なく、無秩序に向かっていきます。これを夢工学では「エントロピー」増加といいます。この考えでは夢も、その実現と成功のための意思決定や行動(活動)も、創られた物も、全て無秩序になり消え去って行くということになります。従って夢を常に、確実に、持ち続けるとは秩序を維持することになります。言い換えればエントロピーを減少させること、つまりエントロピーの増加を防ぐことと同じ意味です。夢の実現と成功のために意思決定と行動を徹底的に素早く実行しないと、夢も、アイデアも、イメージも、様々な計画も、あっという間に消えてしまいます。

 「あれだけ議論して方針を決定したのに、いつの間にか実行されないまま放置されている」、「最初は一生懸命取り組んでいたのに、いつの間にか立ち消えになっている」、「あと一歩で実現する可能性が出てきたのに、他の優先案件で忙殺されていつの間にかあと一歩を進めなくなった」など…経験ありませんか?多くの人は責任者の無責任さ、責任逃れ、責任転換などが原因と考えますが、責任者を含めて夢の実現を期待し、取り組んできた人達の情熱・関心・意気込みなどがいつの間にか少しずつ薄れ、気づいた時は元に戻せないほど衰退するというエントロピー増加現象(無秩序に向かうこと)が起こったことも重要な原因なのです。無責任、責任逃れなどの責任追求だけでなく、エントロピーの社会的現象を認識せず、エントロピー増加を防ぐ行動を取らなかったことを反省すべきでしょう。夢実現のためには環境変化を認識して夢を保持することと同時に、問題認識と問題解決のスピードを極限まで速めることが大切です。

体得論:夢工学を現場感覚で体得し活用する

 夢工学は理論だけでなく頭手足体を使い、「体得」によって初めて修得できる工学です。机上の形式知だけでなく、現場感覚の暗黙知も必要です。しかし「知」だけでは不十分であり「行動」によって習得することが大切です。夢工学は、「考えて行動する」そして「行動して考える」という左右の両脳とからだをフル回転させて初めて修得されます。これはスポーツや楽器演奏の修得とそれぞれ酷似しています。理論に基づかない練習、練習に基づかない理論、言い換えれば理論と実践の同時体得がない練習は「百害あって一利なし」です。 同様に理論と体験の裏付けがないガムシャラなプロジェクト推進では夢は絶対に実現も成功もしないのです。夢工学を現場感覚で体得して活用してください。

成功論:成功を積み重ねる

 成功論は「失敗は成功の母」ではなく、Success is a stepping stone to success…「成功が成功の母」と考えます。成功者は成功者が持つ長所を持っていますから、成功は更なる成功を生みます。成功は成功の源なのです。成功する人が成功する。だから成功を積み重ねる必要がある。そして成功した事実を自らの精神構造に組み込み、行動を起こすことをお薦めします。夢工学は夢を実現し、成功を遂げるまでに必ず数多くの失敗を伴うことを当然の前提としています。失敗を克服する挑戦心だけでは十分ではなく成功体験が必要です。失敗は成功の源ではありません。失敗する人は成功しませんし、失敗しない様にしても成功はしません。失敗を恐れず、失敗に挫けず、失敗を克服するのは、夢を持ち、夢実現への強烈な情熱があるからこそ出来ることなのです。

自己実現論:二度とない人生を自己実現で極める

 人間の最も高次の欲求を「自己実現」と定義した「マズローの欲求五段階説」をみなさんよくご存知だと思います。自己実現を目指すことを自らの精神構造に組み込んで、それに従った行動をとることで夢実現と成功を成し遂げること、その時に得られる高度な満足感である自己実現を達成することこそが夢工学の究極の目標です。事業プロジェクトの目的達成だけでなく、プロジェクトに参画する人が自らの自己実現を目指して、当該プロジェクトを推進することが出来れば理想的です。プロジェクトの成功者は、夢の実現と成功によって得た果実を遥かに超えた自己実現の喜びと、新たに夢実現と夢成功のための挑戦エネルギーを手にしています。二度とない人生を自己実現で極めることは大切なのです。
 


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 「夢がすべて」を前提とした夢工学の「夢」は、パトス論(理念論)とロゴス論(技術論)を同時に習得し同時に活用することを求めます。ある方が「創業はロマンとリアルの綱引き」と言いました。「ロマン」はパトス論に、「リアル」はロゴス論に相似するかもしれません。しかし「綱引き」ではどちらかに勝敗がつきますが、夢工学は両者に勝利させる考えです。それがパトス論とロゴス論を同時に実践する意味でもあります。

 次回は夢工学のロゴス論(技術論)について、紹介をさせていただきます。それでは、またお会いできるのを楽しみにしております。

〔文責:有馬諄〕